■女性主導で国生み失敗ってどういうこと!?

夫婦仲良く祀られている多賀大社(滋賀県多賀町)

画像:Saigen Jiro, CC0, via Wikimedia Commons

 前回記事でご紹介したように、日本を形づくった神ともいえるイザナギとイザナミはヒルコだけでなく、次に生まれたアワシマも同じ理由で海へ流してしまう。「なぜ、立てつづけにこんなことになるのだろう」と悩んだ二柱の神は高天原(たかまがはら)の神に相談する。この高天原に住まう神を「天津神(あまつがみ)という。彼ら天津神が占うと、イザナミから先にイザナギに声をかけたのがいけなかったという。

 

 じつはオノゴロ島におりて国を生もうとした際、イザナミが「なんてステキなお方」と声をかけ、つづいてイザナギが「なんてカワイイ少女だろう」といい合ってから、コトにおよんでいる。現在ではまったく問題がない──というよりも、「なんなら女性から誘ってほしい」と思う男性諸氏も多いだろうが、なにぶん神代のことである。女性からモーションをかけてはいけないという戒めではあるものの、ご容赦を願いたい。

 

 さらに、この言葉をかけあう前にイザナギは、「お前の身体はどうなってるの?」と聞き、イザナミは「わたしの身体は成り整っておりますが、成り合わない部分が一つだけあります」と答える。それに対しイザナギは、「わたしの身体は成り整っていて、成り余ったところが一つある」と告げる。そこで、「成り合わない部分(女性器)を成り余った部分(男性器)でふさぎ、国を生もう」と提案。思わず赤面してしまいそうなほど、生々しい描写ではある。

 

■国生み神話の背後に「海人族」の影が!

淡路島には海人族の信仰の名残を伝える伊弉諾(いざなぎ)神宮がある。元々はイザナギ一柱のみを祀っていたとされる。

画像:Saigen Jiro, CC0, via Wikimedia Commons

 占いの結果を受けて、今度はイザナギが声をかけ、イザナミが答えて国生みの作業に入る。すると淡路島(あわじしま)、四国、隠岐島(おきのしま)、九州、壱岐島(いきのしま)、対馬(つしま)、佐渡島(さどがしま)と順に生み、8番目に生まれたのが本州だ。本州の別名を「大八島(おおやしま)というのは、そのためである。

 

 普通に考えれば、日本の国土でもっとも広い本州を、最初に生むのが筋のように思う。この順番について、もともとイザナギは淡路島の海人(あま)の間で信仰されていた神であり、「国生み」も淡路の伝説だったとする説がある。そのため、淡路島とその周辺の島々を生む地方の伝説が発展し、「日本全土の国生み」になったとも考えられている。

 

■国生みから神生みへ…だが惨劇が!

 

 国生みを終えた2柱の神は、次に「神生み」へと進む。かなりのバイタリティだ。河川の神、山の神、風の神、建築の神など、自然や生活に関する神を次々と誕生させ、最後に生まれたのが火の神「カグツチ」(注1)だ。

注1/『古事記』では火之迦具土神 (ほのかぐつちのかみ)などとも呼ばれる。なお、斬殺されたカグツチの血や体から、さらに八柱の神が生まれたとされる。

 

 ただ、カグツチを生んだとき、イザナミは大切な部分に大やけどをし、この世を去ってしまう。怒り悲しんだイザナギは、カグツチを斬殺。かわいそうなのは、罪のないカグツチである。お気に召さない子どもを簡単に海に流し、今度は生まれたばかりの我が子を斬り殺してしまう。DV夫も極まれり、冷酷非道とはこのことだ。しかも、イザナギはその後、イザナミに対しても冷たい態度を取ってしまう。

 

■黄泉へと旅立ったイザナミに未練タラタラ?

イザナミを迎えに黄泉国へと下っていったとされる「黄泉比良坂」(島根県東出雲町)

画像:ChiefHira, CC BY-SA 3.0 ,via Wikimedia Commons

 この世から去ったイザナミは黄泉国(よみのくに)、すなわちあの世へと旅立ってしまう。イザナミのことを忘れられないイザナギは、連れ戻すために黄泉国へと向かう。イザナギは、黄泉国の御殿から出てきたイザナミと対面。

 

「まだ国生みの途中なんだから、地上に戻って続きをしようよ」

 

 イザナギは懇願するもイザナミは首を縦に振らない(出産でアソコに大火傷を負って亡くなった方にいう言葉ではない。国生みを盾に取るモラハラ夫もいいところだ)。なぜならイザナミは、すでに黄泉国の食べ物を口にしてしまったからだ(注2)。ただ、イザナミにも未練があったようで、黄泉国の神になんとかできないか相談する、という。

注2/ヨモツヘグイ(黄泉戸喫/黄泉つ竈食)と言い、穢れた黄泉の国のかまどで煮炊きしたものを食べると黄泉の国の住人となってしまい、現世に帰れなくなるとされる。

 

「相談している間、わたしの姿を見てはダメですよ」

 

 そう、いい残して──。