■野菜売り場はトマトの悲鳴で地獄絵図?
「茎を折られたり、水をあげなかったりするとトマトは悲鳴をあげる!」
いきなりそんなこと言われて信じられます? だいたいトマトが痛がるって、茎を折られて悲鳴をあげるなら、スーパーの野菜売り場はトマトや大根の悲鳴で地獄絵図だ。牛さんがかわいそうと肉を食べないヴィーガンは、どうすればいいのか。動物愛護の次は植物愛護? 飢え死にもやむなしの覚悟で愛護するのか?
「そもそも叫ぶも何も、トマトには口がないじゃないか。どうやって叫ぶんだ?」
そんな読者の皆さんの疑問もごもっとも。そこでトマトが実際に「悲鳴」をあげていることを証明した、こんな実験結果を紹介しよう。テルアビブ大学生命科学学部のイサク・カハトらは、トマトとタバコを使って、ストレスを与えた植物の出す超音波を採取した(※1)。
※1「Sounds emitted by plants under stress are airborne and informative」(Itzhak Khaitほか Cell VOLUME 186, ISSUE 7, P1328-1336.E10, MARCH 30, 2023)
実験の仕組みを簡単に説明するとこうだ。まず、トマトとタバコの苗木を3セット用意し、それぞれ外部の音が入らない吸音箱に入れる。そして、1つは水を与えずに乾燥させ、1つは茎を切断、もう1つを対照として何もせず、苗木にマイクロホンを向けて録音を開始した。
乾燥させた苗木と茎を切った苗木は、何もしない苗木よりも多くの音を発した。乾燥させたトマトとタバコは、それぞれ1時間あたり35.4 ± 6.1回(トマト)と 11.0 ± 1.4 回(タバコ)、茎を切った場合は、1 時間あたりトマトが25.2±3.2回でタバコが15.2 ± 2.6 回となった。それに対して何もしない苗木が出す音の回数は、どちらも1時間あたり1回未満。つまり、酷い目に遭わされたトマトやタバコは約30~40倍も「叫び声」を発していたのだ。
■トマトの叫び声は超音波
このトマトが出す「音」だが、超音波なのだそうだ。おっさんにモスキート音が聞こえないように、トマトの叫びは人間には聞こえない。道理で野菜売り場が静かなわけである。
録音した超音波を人間が聞こえるように調整すると「タンタン」という軽く指先で机をたたくような音=クリック音が続いている。叫び声というよりはリズム音。
音の正体は植物が水や栄養を運ぶための維管束に「キャビテーション」、つまり液体の中で泡ができる現象が起こり、その泡が破裂する音らしい(ちなみに、お湯を沸かすと泡立つが、あれもキャビテーションだ)。口もノドもないが、植物は叫び声を上げられるわけだ。動物に置き換えれば、血管の中であぶくがパンパンはじけているわけで、なんて非常識な連中なんだ。
なお、この実験で、乾燥させるよりも切られたほうが、トマトもタバコも大声で泣くこと、乾燥させた時と切られた時では音のリズムに違いがあり、受けたストレスによって違う声で泣くこと、個体差はほとんどないがトマトとタバコでは泣き声に明確な違いがあること、などがわかったそうだ。
痛い……のか? トマト? わからん。わからんが、とりあえず叫び声は上げる。野菜売り場は超音波の叫び声に満ち満ちている。