■植物はオオカミのように遠吠えをする

キャビテーションにより、植物から超音波が発生する原理

画像;埼玉大学

 しかし、動けもしないトマトが叫んでどうするのか。根っこが生えているのに叫んだって何もできないだろう。何かできるのか? ……できるのだ、それが。

 

 国立ネゲブ大学のオメル・ファリク(※2)によれば、乾燥させた植物が超音波を出し始めると、それを聞いた周辺の植物は同じように超音波を出すのだという。そして「泣き声」は次々にリレーされて、一帯の植物全体が超音波を出す。さらに、植物の葉には気孔という小さな穴があり、そこから余分な水分を蒸発させるのだが、タンタンタンタンと超音波で叫び始めた植物は気孔を閉じる。水分の蒸発を防ぎ、乾燥に備えるのだ。

※2「Rumor Has It…: Relay Communication of Stress Cues in Plants」(Omer Falikほか PLOS ONE November 2, 2011)

 

 こうなると植物の超音波は「泣く」というよりは動物の叫び声に近い。オオカミの遠吠えのように、一頭ならぬ一株が「乾いているぞ!」と叫べば、次から次へと「水がない」「乾くぞ」と叫び合い、一斉に水分を逃さないように防御の姿勢をとる。

 

 ということは、植物が出す超音波は植物同士が互いにわかる言葉であって、彼らは彼らの叫び声を聞いて内容を理解する、そういうことなのか?

 

 内容を理解しているかどうかはさておき、この反応を利用した研究はすでに進んでいる。埼玉大学では、植物の超音波を測定し、水やりのタイミングを測定する研究を進めている(※3)。トマトやメロンは水やりが少ない方が実が甘くなる。そこで植物の叫び後を測定、ギリギリで水をやるという仕組みを研究しているのだ。悲鳴を利用して美味しくさせるなんて、人間の知恵はなかなかにあくどい。

※3「エレクトレットセンサを用いた植物のアコースティックセンシング」(埼玉大学リリース)

 

■耳があるのかないのか? 植物は音を聞き分ける

シロイヌナズナの葉を虫が食べる音を録音、他の株に聞かせる実験。音が小さすぎてマイクは使えず、特殊なレーザーを使って録音を行った

 画像:ミズーリ大学

 マイハギというインド原産のマメ科植物は音楽を聴くと葉が踊るように動き始める。すべての葉ではなく、若葉だけだが、目に見えて動く。オジキソウが葉を閉じる様子と似ている。気温が25度を超えても動き始めるので、熱を逃がすのためでは? と考えられているが、マイハギは温度だけではなく音を聞いても動き出す。

 

 ミズーリ大学の研究チームは、シロイヌナズナの葉をモンシロチョウの幼虫が食べる音を録音、別のシロイヌナズナに聞かせる実験を行なった(※4)。比較のために風の音や無害な昆虫の動き回る音なども聞かせ、シロイヌナズナの生理反応を調べた。すると幼虫の咀嚼音を聞かせたシロイヌナズナのみ、昆虫が嫌うカラシ油の成分が増加した。

※4「Hearing danger: predator vibrations trigger plant chemical defenses」(online in the journal Oecologia July 1, 2014)

 

 シロイヌナズナは虫が葉をかじる音を聞き、防御を固めた。虫が葉をかじる音が聞こえたので、次は自分の番なのかと警戒した。あるいは自分の体がかじられていると錯覚した。ということは……シロイヌナズナは虫が葉をかじる音を記憶していて、他の音から聞き分けたことになる。

 

 どうなっているのだ。脳もなく耳もないのに、植物はどのような方法で音を区別しているのか。

 

■話しかけられた植物は元気になる……ように見えるわけ

明治大学が出願した「低周波刺激による光合成促進方法」の特許。植物工場で利用できるのでは? と考えられている。振動は植物の生長を促すのだ

 ここまで「叫び声」だの「音」だのと書いてきたが、そもそも音は空気の振動だ。スピーカーが震えるように、音で物は震える。鼓膜が振動して、私たちは音を聞く。植物は音を聞くというよりも、この「振動」に反応しているらしい。

 

 よくモーツアルトを聞かせると植物が良く育つというが、実際に音の刺激が植物の成長に影響を与えることはすでに確認されている(※5)。音楽でも効果はあるが、種類は無関係。モーツアルトである必要はなく、ハードロックでもメタルでもなんでもいい。音楽の種類は無関係で、植物を振動させるだけの音圧と周波数が含まれているかどうかだ。ようするに揺れればいいのだ。

※5「音刺激によるカイワレダイコンの生長促進について」(坂本憲昭 計測自動制御学会産業論文集Vol.5, No.4, 25/26 2006)

 

 振動と植物の関係では特許も取られている(※6)。なんと出願者は明治大学だ。そこらのチンピラ発明家とはわけが違う。間違っていたら大学の看板に傷がつくわけで、きちんとした実験の裏付けがある。

※6「低周波刺激による光合成促進方法」(特許番号 特許第4505584号 公開番号 特開2007-050004)

 

 特許公報によると、1000Hz以下、なかでも40Hz以下の低周波刺激によって植物の光合成は促進するのだという。肝は「振動」がポイントというところで、ストロボの点滅でも電気刺激でも磁石を近づけたり遠ざけたりすることでも効果が出る。しかも、データを見る限り、磁力の影響が一番大きい。

 

 毎日、声をかけると植物が元気になるという体験も、実はこの振動が理由だろう。人間の声の周波数(※7)は成人男性で120~150Hzなので、40Hz以下ではないにしろ、それなりの効果は期待できる。声以外にも触れたり、近づくことで植物は振動し、それが成長に影響するのではないか。

※7「音声と話者の・相関関係について」(鈴木誠史 日本音響学会誌41巻12号 1985)

 

 ちなみに、元気のない植木は、エアコンの室外機のそばに置いておくと元気を取り戻すそうである。室外機の振動で揺れるからだ。家の植木が枯れかけたら、やったらいいと思う。