■伊勢神宮のはじまりは日本滅亡の危機!?
このように、わがままで多少神経質なアマテラスだが、スサノオを武装して迎えたように勇猛さも兼ね備えている。それを示すエピソードは、ほかにもある。
「記紀」によると、初めて日本全土を治めたという第10代崇神天皇の時代に、疫病や反乱が全国多発したことがあった。その災厄はとどまるところを知らず、日本の人口の半分が死亡し、国の体制すら大きく揺らいだとされる。
この日本滅亡の危機は、『古事記』ではオオモノヌシ(大物主命)のしわざとされるが、『日本書紀』では二柱の神の対立が祟りを引き起こしたとする。その一柱がアマテラスである。
実は、崇神天皇の時代まで宮中では「ヤマトノオオクニタマ」(注2)とアマテラスが同時に祀られていた。それを不服とした二柱のいさかいによって国中が祟られた、と占いは告げる。この神託によってアマテラスは別の場所で祀られることが決まり、笠縫邑(かさぬいむら)の地に遷された。
注2/倭大国魂命、あるいは日本大国魂命。現代では、奈良県天理市の大和神社などに祀られることで知られる。ちなみに東京調布市にある、よく似た名前の「大國魂神社」のご祭神は大国主神(大物主)。
その後もアマテラスは幾度か移動させられ、第11代垂仁天皇が遷した伊勢国に神社が建てられたことでようやく落ち着いた。その神社が現在の伊勢神宮である。
■天照大神は女神ではなかった?
さらに天皇家の祖先神は、アマテラスではなかったとする説もある。
もともと皇祖神の候補とされていたのがタカムスビで、事実、『日本書紀』には「皇祖」と呼ぶ場面がある。しかも、現在でこそアマテラスは女神として知られているが、皇祖神となる以前は男神だったともいわれている。
天照大神が男神だったとされるのは、『古事記』と『日本書紀』に女神と断定する描写がないこと、世界の太陽神が総じて男神であること、そして『日本書紀』の序盤で天照大神は、太陽神の巫女を意味する「オオヒルメノムチ」を名乗っていたことだ。
このことから、天照大神はもともと太陽神に使える巫女で、本物の太陽神は男神だったとする考えが一部にはある。
では、なぜ男神の太陽神が女神になったのか。理由は太陽神という高位の肩書きと巫女にあるという。古くには太陽神に使える巫女がいて、各種の儀式を執り行なっていた。そうするうちに、世間では次第に巫女と祭神の太陽神が同一視されていき「アマテラス」が生まれたという。同時に、ヤマト政権の全国支配が進むと、天皇の権威向上を目的にアマテラスも皇祖神に加えられ、やがてタカムスビが忘れ去られた、とする説もある。
とにもかくにも、オモイカネの「不適切にもほどがある」大作戦とアメノウズメの機転で、世の中は救われた。そしてスサノオは、高天原を追放されてしまう。さらに地上へ降り立ったスサノオは、とんでもない巨大怪獣と対決するのであった。
『古事記(上)全訳注』次田真幸・訳注(講談社学術文庫)
『日本書紀(上)全現代語訳』宇治谷孟・翻訳(講談社学術文庫)
『「作品」として読む古事記講義』山田永・著(藤原書店)
『古事記講義』三浦佑之・著(文春文庫)
『本当は怖い日本の神様』戸部民夫・著(ベスト新書)
『神道入門 日本人にとって神とは何か』井上順好・著(平凡社新書)
『神話のなかのヒメたち もうひとつの古事記』産経新聞取材班・著(産経新聞出版)
『三種の神器 <玉・鏡・剣>が示す天皇の起源』戸谷学・著(河出書房新社)
『八百万の神々 日本の神霊たちのプロフィール』戸部民夫・著(新紀元社)