■「地震予知する生き物」といえば……

安政地震の後で、めっちゃ怒られているナマズの図 (国会図書館収蔵)

画像:Wikicommons

 さて、犬猫牛鶏と見てきたが、「地震を予知する生き物」として忘れてはいけないヤツがいる。そう、ナマズだ。ただ、ナマズと地震の関係は意外と新しく、江戸中期ごろのことで、たとえば、松尾芭蕉が延宝7年(1679)に、
 
大地震つづいて龍やのぼるらん(意訳:大地震が続くのは龍のせいですかね?)


 という弟子の似春による発句に、

 

長十丈の鯰なるらん(意訳:いやいや、デカいナマズだべ)

 

と詠んでいる。このころから地震はナマズが起こすと言われ始めたようだ(※2)

※2「鯰絵にみる日本人の地震観の変遷」(兵庫県立人と自然の博物館 加藤茂弘)

 

 日本で動物による地震予知をしようという研究が始まったのは、1976年のことだ。同年8月から東大名誉教授の末広恭雄が魚類を使った地震予知の研究を始めている(※3)。また1977年には地震学会で力武常次東工大教授が動物の異常行動と地震について講演を行なっている。

※3「動物と地震?」(書庫からの便り22 地質ニュース 地質調査総合センター)

 

 なぜ、70年代半ばから動物と地震の関連が研究され始めたかというと、なんと、中国で動物による地震予知が成功したからなのだ。マジか!?

 

■中国で動物による地震予知が成功していた!

海城地震の際に起きた動物の異常行動の一例。大量のカエルが路上を移動し始めたという。

画像:SME科技故事官方澎湃号 

 1960年代、中国では地震前に動物が異常行動を起こすことに着目、動物の行動を詳細に記録し、地震予知に使えないかと検証していた。異常行動を起こす動物は2000種に及び、異常行動の種類は600~700もあるのだという。

 

 事実、1969年7月18日に起こった渤海湾地震(M7.4)では、震源から約500km離れた天津人民公園の動物園で動物が異常行動を起こしたため、早くから地震警報を発令、人命救済に役立ったという。

 

 さらに1975年2月4日の海城地震(M7.3)でも、遼寧省海城市の市民数万人の命を救うことに成功しているのだ!

 

 実はこの当時、中国政府は早くから国家地震局を設置、地震予知として地中のラドンガス(放射性ガスで地殻異常の前兆とされる)の変化や井戸水の水位変化に加え、動物の異常行動も観察していた。また、動物の異常行動があれば、市民が地震局へ連絡するという形で情報を収集していたところ、前年の12月中旬頃から

 

「冬眠中の蛇が這い出て凍死していた」

「ネズミが大量に外に出て人間を見ても逃げずにボンヤリしていた」

 

 といった報告が増え始めた。また、牛馬の家畜や犬猫以外にもトラやシカなどの野生動物、魚や鳥に異常行動がみられた。具体的には尋常ではない様子で吠えまくる、食べ物を食べない、突然、何かに驚いて逃げるなどがあった。

 

 前震や地中からのガスの噴出、地中電位(注:地面には微弱な電流が流れている)の急激な変化が確認され、こうした情報を総合的に判断し、2月4日午前10時、市当局は海城市民全員に避難指示を出した。

 

 その日の午後にも人民公社から「アヒルが100メートルも飛んだ」と報告されるなど、動物の異常行動は続く。市民は避難所に避難し、彼らに向け映画上映を行なっていた午後7時36分、猛烈な揺れが海城市を襲った。だが、早期の避難により、死傷者数は最低にとどまったという(※4)

※4「中国の地震予知」(尾池和夫/NHKブックス)https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/44055/1/oike_1978a.pdf

 

■なぜ動物は地震がわかるのか?

上図が地中電位の変化、下図がナマズの異常行動の記録。電界の上下とナマズの動きがほぼ一致している 。

画像:東京都水産試験場

 精度はともかく、動物に地震予知能力がある可能性はかなり高いようだ。ただ地震予知として役に立つかというと、はなはだ疑問だ。海城地震でも決め手となったのは微小地震の増加と地中電位の急変であり、動物の異常行動はあくまで補強材料だ。

 

 中国では地震の前触れとして起こる気象の異常などを「宏観異常現象(または宏観現象)」と呼び、日本もそれに倣っている。ただ、日本ではこれまで宏観異常現象は重要視されてこなかった。よく言われる地震雲や山の発光現象も観測記録はあるものの、学術的に研究されてきたとは言い難い。


 
 動物は何を感じて騒いでいるのだろうか。もっとも有力な説は地中電位の変化だ。とはいえ、動物が地面を流れる電気をキャッチできるのか? 疑問に思う方も多いだろう。

 

 だが実は、東京都水産試験場でナマズを観察、地震予知が可能かどうかを長年調べているのだ(※5)。1992年2月2日4時4分に三浦半島沖で発生したM5.9の地震では、1月22日から行動が活発化、25日から30日までは明らかに異常だったという。ナマズは普段動かないが、この時はせわしなく動き、暴れたのだ。

※5「地震とナマズの異常行動と電磁界変動」(防災科学技術研究所 地震予知総合振興会)

 

 なお、同試験場では地中電位の測定も行なっており、地中電位の変化とナマズの動きには明確なつながりがあったという。そもそも、サメやナマズなど一部の魚類にはロレンチーニ器官という、電磁気を探知する器官がある。100万分の1ボルトという非常にわずかな電圧の変化も捉えられるそうで、これが地震の前兆である地中電位の変化をとらえたのでは? という。

 

 どうやら「電気」がカギを握るようだが、実は、地震だけでなく幽霊やオーラも電気と関係してるんじゃないか? という奇説を続く中編で紹介する。