現在、全米で蔓延している陰謀論にも大きな影響を与えた、アメリカを蝕む「悪魔崇拝」への恐怖を追う短期集中シリーズの【第1回】では、1980年代~1990年代にかけて巻き起こった“現代の魔女狩り”とも言える「サタニックパニック」について見てきたが、この【第2回】では、その社会的ヒステリーを起こしたきっかけとなった1冊の書籍を紹介しよう。
ただその前に、問題の書が刊行されるに至る前史をまずは見ていこう。80年代に入るずっと以前から、アメリカは悪魔の恐怖に怯えていたのだ──。
■全米が恐怖した「悪魔映画」ブーム!?
まずは1968年6月、1本の映画が公開された。タイトルは『ローズマリーの赤ちゃん』。未見の方には申し訳ないが、ある女性が悪魔崇拝者によって悪魔を孕ませられてしまうホラー映画だ。ただ、本当に恐ろしいのはここからだ。
公開から約1年後の1969年8月、監督のロマン・ポランスキーの妻が妊娠中の胎児とともに惨殺されてしまった。世にいう「シャロン・テート事件」だ。犯人はチャールズ・マンソン率いる終末思想に取り憑かれたカルト集団、犯行の残酷さとともに「あんな忌まわしい映画の影響、いや呪いでは……」といまだに噂が囁かれている。
そして、この事件から約4年後の1973年12月、伝説的なホラー映画『エクソシスト』が公開された。エクソシスト(悪魔祓い師)の神父と少女に取り憑いた悪魔との絶望的な戦いを描いた傑作で、この年の全米興行収入第1位(4億4000万ドル)の大ヒットとなった。
さらに3年後、1976年6月には、傑作ホラー『オーメン』が公開される。こちらも6000万ドルのヒットとなり78年、81年とシリーズ作が製作され、小説版は265万部も売り上げた。日本でも繰り返し上映されたので「666(獣の数字)」をこの映画で知った方は多いだろう。
こうして、すでに60年代末から80年代にかけて、次々と「悪魔映画」が大ヒットし、悪魔に対する恐怖感がアメリカの一般大衆のあいだで広がっていたわけだ。そして、そこに1冊の本が発売された──。