短期集中連載「アメリカを蝕む悪魔崇拝への恐怖」の最終回にあたる今回は、【第3回】で触れたように、全米に蔓延した「サタニック・パニック」に便乗して一儲け企んだ、いわば「悪魔崇拝ビジネス」に手を染めた代表的人物について見ていきたい。

 

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■サタニック・パニックが猛威を振るうさなかに…

悪魔崇拝
アメリカでは現在も「女性や子どもが数万人規模で悪魔崇拝者に誘拐され生贄にされている」と固く信じている人が少なくない(画像はイメージ) 画像:Shutterstock

 これまで見てきたように、1980年の『ミシェル・リメンバーズ』の刊行(詳細は【第2回】参照)、1983年に告発された「マクマーティン保育園裁判」を始めとする一連の事件(同じく【第3回】参照)により、

 

「社会の暗部に悪魔崇拝者(サタニスト)が蔓延していて、密かに子供達を性的・肉体的に虐待している」

 

 というおぞましい「悪魔的儀式虐待(Satanic Ritual Abuse:略称SRA)の噂が全米に広まり、各所で魔女狩りのような「サタニスト探し」が行なわれていた。後に「事実無根につき、全員無罪」という判決が下る「マクマーティン保育園裁判」も激烈な論争を繰り広げていた頃だ。

 

 そんな状況下で、再び物議をかもす1冊の本が出版される──。

 

■悪魔崇拝者の実在を証明する新たな「真実の告白」!?

80年代後半で最も物議を醸した1冊と言える『悪魔の地下室』の著者、ローレン・スタットフォード。
画像:ニュースサイト・KENH14記事より

 1988年1月に刊行された、その本のタイトルは『悪魔の地下室(Satans Underground)。著者はローレン・ストラットフォード(Lauren Stratford)。自身もSRAや性的虐待のサバイバーで、法的機関やNCMEC(全米行方不明・被搾取児童センター 注1)などNGOのアドバイザーをしていると著者プロフィールには書かれている。

注1/米上院などの支援も受けているNGO。児童の失踪事件は以前から深刻な問題で、この不安が「サタニック・パニック」にも影響を与えているとする声も。

 

 この本の中で自らが体験した実話として、ストラットフォードは4歳から20代前半まで、悪魔崇拝者(サタニスト)と両親によって薬物で心と体をコントロールされ、精神的、肉体的に拷問を受けたと主張。生々しい虐待の描写は、出版社が「本書の描写は感情的に耐えられないものがあるかもしれません」と注意書きを入れるほどだった。

 

 もちろん、この本の登場によりSRAや悪魔崇拝者の実在を信じる人々は、『ミシェル・リメンバーズ』に続く「悪魔崇拝者の実在を証明する『真実の書』が新たに登場した!」 とストラットフォードの勇気ある告発に喝采を送った。
 

※ローレン・スタットフォードのインタビュー(動画の後半)

 

■世界で最も影響力ある女性が太鼓判を押す⁉

オプラ・ウィンフリー

「世界で最も影響力ある女性」の一人に選ばれたオプラ・ウィンフリーは自らも性的虐待からのサバイバーと語り、慈善活動家としても知られる。

画像:「Oprah at the Cable Show」 INTX: The Internet & Television Expo, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons

 さらにこの流れを後押ししたのが、当時、「世界で最も影響力のある女性」と謳われた、全米ナンバーワンの人気テレビ司会者オプラ・ウィンフリーだった。日本の読者にはピンとこないだろうが、【第2回】で触れたように、イメージとしては黒柳徹子と上沼恵美子を足して2で割ったような存在。

 

 しかも、成功したアフリカ系女性の代表的存在として、政治的な発言も積極的に行なうオピニオン・リーダーでもあった。実際、米史上初のアフリカ系大統領、バラク・オバマ氏の支援者の一人として、後に大統領自由勲章も授与されているセレブ中のセレブだ。

 

『悪魔の地下室』刊行翌年の1989年、ストラットフォードはそんな彼女の看板番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」に『ミシェル・リメンバーズ』の共著者ミシェル・スミスと共にゲスト出演。オプラから、

 

「(彼女たち二人の告白した)物語は非の打ち所がない事実だ」

 

 と太鼓判を押され、ミシェル・スミスとともに「SRA(悪魔的儀式虐待)」の危険と、全米各地に潜んでいる悪魔崇拝者への警告を発したのだった。