歌舞伎町のとあるキャバクラでナンバー1キャバ嬢だったリオ。だが、現在はきっぱりとキャバクラをやめて、地元のスナックで働いている。リオが「歌舞伎町には戻りたくない」とまで言った、きっかけを作った『ガチ恋客S』が起こした恐ろしい出来事──それはリオが店のナンバーワンとなって初めてのバースデーイベントの夜に起こった(詳細は前編記事を参照)。
■リオにとって記念すべき夜に事件は起こった
売れっ子キャバ嬢は、誕生日に店でバースデーイベントが行なわれる。もちろん、ただの「お誕生日会」というワケではない。シャンパンが何本も入るため、キャバ嬢にとっては大きな売上になるのだ。
当然、バースデーイベント成功のカギは、どれだけ多く払いのいい客を呼べるかにかかっている。ナンバー1のリオは、その当時、そうした筋のいい太客を何人も抱えていた。そのため、いつもワンセットだけで帰るようなSに対して、わざわざ「バースデーイベントに来てほしい」という連絡をするはずがなかった。
「……でも、バースデー当日、Sはやってきたんです。まさか来るとは思っていなかったので席を用意していなかったんです。結局、1時間ほど経っても席が空かなくてSは帰っていきました」
その日は何十本ものシャンパンが入り、イベントは大成功だった。営業終了後、酔いながらもバースデーイベントを成功させた安堵感に包まれていたリオ。着替えを終えて一息ついていると、店長に声をかけられた──。
■店長から渡された「Sからの手紙」
「店長から、『Sさんがこれをリオに渡してほしい』と言って、何かを渡してきたんです。それはA4サイズの封筒で中を開けると……婚姻届が入っていました」
婚姻届にはSの名前や住所が書き込まれていた。そして、「妻になる人」の欄は空白だった。それを見たリオは一気に酔いが冷めて、思わず「イヤーー!!」と絶叫した。
尋常でない様子に慌てて店長が駆け寄り、取り乱すリオを介抱し、その日は送りの車で自宅まで届けたという。
「でも、家に帰っても震えが止まりませんでした。後日、店長と相談してSは出禁にしてもらいました。Sには連絡先も教えていなかったので、これでもう関わることもないと思い、とりあえずは安心していたんです。ただ……」
■SNSで送られてきた「おぞましい画像」
それから数日後、Sからリオの仕事用のSNSにメッセージが届いた。新規の指名客が店に来るときのためにメッセージは誰でも送れる状態にしていたのだ。メッセージには画像が添付されていた。それを見た瞬間、
「イヤァアアアーー!!」
リオはまたもや絶叫した。そこには、少女の人形の身体中にリオの名前が赤い文字でびっしりと書かれている画像があったのだ。それも、「これはリオちゃんです。僕らの魂はずっと一緒です」というメッセージとともに……。
リオはすぐにSをブロックしたものの、しばらくはいつ物陰からSが現れるか恐ろしくて、ひとりで外を歩くことすらできなくなってしまった。ただ、それでもナンバー1としては店に出続けなければならない。それまでは電車で通っていたものの、タクシーで店の前まで通うことになった。
「そうやってなるべく歌舞伎町も歩かないようにしてたんですが、ある日、たまたまお客さんとの同伴があったので歌舞伎町で待ち合わせをすることになったんです。お客さんと落ち合う店の場所がわからなかったので、スマホを見ながら歩いていたら……」
すると突然、リオの目の前で、
『ドスン!!』
という衝撃音が響き渡った──。
■事件に巻き込まれかけ怯えるリオ
思わず目の前を見ると、そこには2人の男女が倒れていた。男は先ほどまでリオの前を歩いていたと思われるサラリーマンだ。そして、もう1人の若い女性は体が半分に折れ曲がり、頭から血を流していた。
あまりの凄惨な光景に息が止まったリオだったが、誰かの叫ぶ「飛び降りだ!」の声で、状況はすぐに飲み込めた。
「どうやら、女の子のがビルから飛び降りて私の前を歩いていた男性にぶつかったみたいです。すぐに救急車を呼んだんですが、そのとき、ふとSのことがよぎったんです。もしかすると、私が死ぬように呪ったのかな……と」
もし、タイミングがほんの少し遅かったら、女性はリオに直撃していただろう。その後、リオは目の前を歩いていたサラリーマン男性が、ぶつかった衝撃で半身不随になったことを聞いたという。
これはリオの命を狙いSが放った「呪い(のろい)」なのか? 当のリオはすっかりそうだと怯えているのだが……。
■歌舞伎町にいる限り「Sの呪い」からは…
ただ、こうも考えられないだろうか。亡くなった女性が飛び降りたのも、それにサラリーマンが巻き込まれたのも、あくまで偶然。そして、たまたまリオが歩いていた目の前で事件が起こった──つまり、偶然に偶然が重なっただけ。
そんな悪い偶然が重なった災難に、ギリギリでリオが巻き込まれず、怪我ひとつせずに済んだのはなぜか? 前回の原稿の冒頭で、「呪い(のろい)」という言葉には、もうひとつの読み方があることを書いたことを覚えているだろうか? そう、「まじない」だ。
そこで、こうも考えられないだろうか。「ガチ恋客」としてあれだけリオに執着していたS。「魂はずっと一緒」と薄気味の悪いメッセージを送ってきた男だけに、誰にも傷つけられないようにリオに「呪い(まじない)」を掛けていてもおかしくはない。そんなSの「呪い」のお蔭で、リオがギリギリで巻き込まれずに済んだのでは?
真相は謎のままだが、「のろい」であれ「まじない」であれ、歌舞伎町にいる限り、Sの念からは逃れられないと思ったらしく、この一件のあと、リオはキャバクラをやめて実家に帰った。
「今でもSがどこかで見ている気がするので、いまだに歌舞伎町には行けないですね……」
そうつぶやくリオの表情は今でも暗く、怯えていた。