東京都をすっぽり覆う巨大な群れが襲ってくる!?
長い地球の歴史の中で、世界各地でバッタが大量発生しわれわれ人類に災いをもたらしたことがある。つい最近で言っても、コロナ禍の真っ只中だった2020年、アフリカでサバクトビバッタが大量発生し、エチオピア、ソマリア、ケニアなどが被害を受けた。
さらにサバクトビバッタの大群はアフリカを飛び出し、中東を経てイラン、パキスタンを経由、インドに侵入して、最終的に中国の目前まで到達したのだ。このニュースを覚えている方もいるだろうが、「ただのバッタの大量発生だろ」と甘く見てはいけない。
群れの最小規模で1平方キロメートルあたりで4000万匹。この群れが複数集合して、東京都をすっぽり覆うほどの巨大な群れ(推計で数千億匹!)になるのだという。これが各地で草木を食い荒らし深刻な被害を与えたわけで、国連食糧機関が「2020年のアフリカ地域だけで4200万人が飢餓に陥る恐れがある」と警告を発したほど。また、被害総額は約25億ドル(約3750億円)にのぼるとされる。
■『ヨハネの黙示録』が現実のものに!?
サバクトビバッタによる災害の歴史は古い。旧約聖書の「出エジプト記」にはエジプト王国を襲うサバクトビバッタが描かれ、新約聖書の不気味な預言書「ヨハネの黙示録」には、世界の滅亡を告げる「第五の天使のラッパ」とともに、奈落の悪魔・アバドンとともに世界を襲い、
「5カ月にわたって死ぬことも許されない地獄の苦しみを与える」
と記されている。いかに古代から恐れられていたかわかるだろう。
またアフリカ、中東地域だけでなく、アジアの中国や日本でも昔からサバクトビバッタやトノサマバッタなどのワタリバッタが大量発生して引き起こす災害を「蝗害」と呼び、恐れてきた。中国では三国志の時代の実在の人物が蝗害の被害を記している。
日本でも明治時代の1880年、北海道の十勝地方でトノサマバッタが異常繁殖。農作物が食い荒らされたが、このエピソードが映画化もされた人気漫画『ゴールデンカムイ』でチラリと描かれていたのを覚えている方もいるだろう。なお、この時の蝗害は約5年続き、1884年の夏に長雨が続いたことで大半のバッタが死滅し、収束した。
■史上最大の蝗害はいったいどれほどの規模?
そして、記録に残る過去最大の「蝗害」が、1875年にアメリカ、カナダで大量発生した「ロッキートビバッタ」の大量発生だ。先に2020年のサバクトビバッタは推計数千億匹と紹介したが、この史上最大の群れはどれほどの数だったかわかるだろうか?
なんと、その数12兆5千億匹(推計)!
もはや想像も及ばない規模だが、「史上最大の動物の群集」としてギネスブックに載っている。バッタの群れのサイズは51万平方キロメートルで、日本の国土全体の1.3倍以上だった、と言われている。なお、その当時の記録に拠れば、
「数日間にわたり畑や草木を食い尽くしたバッタは家の中まで侵入しカーペットや服まで食い荒らす」
「ヌメヌメしたバッタの死骸でレールが覆われ機関車が立ち往生」
「バッタの排泄物で池や川が汚染され家畜が死ぬ」
など、二次、三次の被害も続出。その結果、当時進んでいた中西部への移住や開拓がストップするはめになったのだという。
■史上最大の群れが謎の絶滅?
しかし、この大発生から30年後、ロッキートビバッタは忽然と姿を消し、絶滅してしまった。あまりにもそこらじゅうに存在するバッタだったため、研究者たちはこの結果を全く予想しておらず、絶滅の原因は不明のまま。20世紀後半、氷河に堆積していたロッキートビバッタの死骸が採取可能になり、研究が続けられているが、現在も「北アメリカ大陸における生態学の謎」とされている。
1700年代、1800年代には何度も大量発生しており、絶滅直前、1875年の大量発生は特に「アルバート大群」と呼ばれている。場所によっては通過するバッタの大群が6時間も太陽の光を遮ったという。1877年にはネブラスカ州議会で16歳から60歳の住民に、繁殖期に最低2日間の駆除作業を義務付ける「グラスホッパー法」が制定された。
2023年から2024年にかけ、日本で大量発生して被害が報告されたトコジラミのように、現代社会でも害虫によって市民生活が脅かされる危険は存在する。ロッキートビバッタ絶滅の原因が判明すれば、人間にとって世界はもっと安全になるかもしれない。