■行方不明になったタハラ
タハラと距離を置くようになったNさん。その後、何度もタハラから「今、バンコクにいます」という連絡が来たが、Nさんは無視し続けていた。
そのうち、タハラからの連絡が途絶え、1年ほど経った頃。平穏な毎日を送っていたNさんの元に別の友人から連絡があった。
「タハラ、最近何してるか知らない?」
それは、Nさんにタハラを紹介した昔の友人だった。聞くと、友人はタハラとは1年ほど前から連絡が取れなくなっているという。
「タハラはタイに行くたびにローカルカラオケで女の子と撮った写真を友人に送っていたらしいんです。しかし、1年前にタイに行くという連絡が来て以来、タハラから一切、連絡が来なくなったようなんです……」
そこで、よく案内していたNさんに尋ねてきたのだ。だが、Nさんはタハラの居場所など知る由もなかった。だが、本当に行方不明になっているのであれば、心当たりはあった。
「実はタハラ、カラオケの会計時によく店員と揉めていたんです。会計のときに必ず、伝票をチェックして『これは何の代金だ?』と店員に詰め寄っていました。
僕もそれで何度か仲介に入ったことがあるのですが、時には店員とケンカになるくらい張り詰めた雰囲気になったこともあります。タイの夜の店は基本的に安全ですが、裏にマフィアがついていることもある。
トラブルが起こるとマフィアが出てくることもあるので……もしかすると、タハラは今頃……」
Nさんはそう、言いかけて口をつぐんだ。
■タイで行方不明になる日本人はどこへ
だが、タハラは行方不明者として届けられることはなかったという。
「友人も心配はしていましたが、タハラの実家の住所も連絡先も知らないので、どうしようもできなかったみたいです。友人に聞いた話によると、タハラは今年60歳になるのですが、いい歳していつまでも東南アジアでフラフラしていたものだから、家族にも見放されて天涯孤独だったようです」
タイにはそういう日本人が多くいる……というNさん。タイで行方不明になる日本人は筆者も実際に何人かいることは知っている。
だが、家族や仕事関係の人間がいない限り、行方不明者として届け出を出されない。そういう人間は、どこかでひっそりと人目を避けて暮らしているのか。それとも、Nさんが言うように“もしかすると、消されてしまった”のだろうか……。