■脳どころか神経すらない生物も眠る!?

平板動物の一種、センモウヒラムシ。海中に棲む体長数ミリの微生物だ。

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 ヒドラよりももっと単純な、平板動物という多細胞生物としてもっとも単純な生き物がいる。アメーバより少しだけ複雑だが、神経も筋肉も消化器官もなく、最近まで単細胞生物だと思われてきた。

 

 この平板動物も急に数分間動かなくなることや、その場でクルクル回ることがある。生物学者は、これが平板動物の睡眠ではないか? と考えている。ただし、平板動物は数十マイクロメートルから数ミリと非常に小さいため、どうすれば睡眠が確認できるか、まだ研究中だ。

 

 すべての生き物は眠る。脳があってもなくても関係なく、眠る。ここにきて科学者たちは改めて問いかけられている。睡眠が脳の整理のためにあるわけじゃないとすれば、何のために生き物は眠るんだ?

 

■眠ることは生きること、生きるためには眠ること

睡眠のイメージ

生きているすべてのものは眠る。眠りと生きることは分けられないのだ。

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 ここまで見てきたように、脳、さらには神経すら持たない生物も眠ることが次々とわかってきた。これにより実はいま、生物学者たちの睡眠の考え方が180度大転換しつつある。いわば「睡眠の常識」における“コペルニクス的転換”が起こりつつあるのだ。

 

「睡眠の常識」がひっくり返る事例としては、こんなものもある。

 

 クマやヤマネなど冬眠をする生き物は、巣穴の気温近くまで体温を低下させ、極限まで動かないようにしてエネルギー消費を抑える。しかし時々、起きて冬眠を中断し、またしばらくすると”二度寝”するそうだ。しかも、これが冬眠中に何度か繰り返される。冬眠なんだから春までずっと眠っていればいいのに……。この謎の行動にどんな理由があるのか?

 

 実は、冬眠を続けると睡眠不足(!)になってしまうのだそうだ。「なんじゃそりゃ!」と思うだろうが、もう少していねいに言えば、冬眠中に時折起きて体温を上げ、そのうえで冬眠とはまったく別に睡眠を取らないと、春までに衰弱して死んでしまうらしいのだ(※5)。 

※5 「ヒトや動物はなぜ眠るのか」(バイオメカニズム学会誌Vol29.N04 2004)

 

 素人目には冬眠は長~い睡眠にしか見えないが、冬眠と睡眠はまったくの別モノらしい。だから冬眠中でも、わざわざ起きて眠り直さないといけないわけだ。ますます不可思議な睡眠の働きである。

 

 冬眠中ですら睡眠しないといけないぐらい(?)、生き物には何が何でも睡眠が大事なのだが、ではその大事な睡眠を奪ってしまい、眠らせないと生き物はどうなるのか? 

 

 後編では「眠らせないと生き物はどうなるのか」について調べてみた。