■古典的な拷問術「断眠」で幻覚を見ることも
実は「眠らせない」というのは、古典的な拷問テクニックのひとつで、昔も今も行われている。アメリカでは、2000年代前半にアフガニスタンの過激派を収容したグアンタナモ収容所で、CIA主導の拷問が行なわれていた。(※5)
※5「How the CIA tortured its detainees」(Guardian December 2014)
捕虜は大音量の音楽とホワイトノイズ(※6)を24時間流され、眠ろうとすると顔に水をかけられる「睡眠剥奪」が行なわれた。まるで北京の国立生物科学研究所の断眠マウスのように、人間を眠らせなかったわけだ。最長180時間も眠らせなかったというこの拷問では、被害者のうち5名が幻覚を見たという。
※6 テレビの砂嵐のような「シャー」というノイズ音のこと
拷問によって睡眠を奪われると、まずは「不快な疲労感、イライラ、集中力の低下」が起こる。さらにその後、はっきりと読んだり話すことに問題が生じ、判断力が低下するなど認知機能に障害が起こる。肉体面でも体温が低下する一方、食欲が著しく増加と前出の「断眠ラット」と同じことが起こる。そして遂には「見当識障害、視覚の誤認、無関心、重度の無気力、社会的引きこもり などの症状が悪化」するという。(※6)
※6「Why Sleep Deprivation Is Torture」(Psychology Today Decembe15, 2014)
■不眠から死に至る遺伝性難病が存在
しかし、拷問で眠らせなかったら死んだという記録はない。人間は眠らなくても死なないのか?
死ぬらしい。眠れなくなり、死に至る致死性の病気があるからだ。「致死性家族性不眠症(FFI)」という病気で、厚労省では難病に指定している。遺伝性の病気で、狂牛病のように脳に異常タンパク質が蓄積する病気だが、FFIの場合、「視床」という領域が冒される。
視床のうち、視床下部では睡眠をコントロールし、睡眠のサイクルやリズムを視床下部から分泌するホルモンで作り出している。FFIが発症すると、ここが破壊されるため患者は眠れなくなる。最初は眠りにくい、眠れないといった睡眠障害で始まり、最後はまったく眠れなくなり、半年から2年で死亡する。
人間だろうとマウスだろうと、同じように「眠れなくなると死ぬ」のだ。
■ロシアで行なわれた(?)「狂気の断眠実験」
死につながる行為は恐怖を掻き立てる。不眠もまた恐怖の対象なのだ。最後に、多くの人がイメージする「眠れない恐怖」をよく表しているネットの都市伝説、「ロシアの睡眠実験」を紹介しておこう(なお、これはあくまでネットの噂であって、ロシアでこのような実験が行なわれたという記録はない)。
被験者は政治犯で、実験に参加すれば30日後に釈放されるという条件を信じ、密閉された実験室に入った。
実験開始9日目、被験者の1人が叫び始め、やがて全員が叫び始めたが、急に全員が黙ってしまった。観察用の窓は雑誌から破いた紙で塞がれ、中の様子がわからなくなった──。
12日目、実験室内の酸素消費量が、全員が激しい運動をしているかのように急上昇したが、外からは何もわからなかった──。
14日目、これ以上は危険と判断、ドアが開けられたが1人は死亡、残り4人は生きてはいたが、見るも無残な状態だった。4人とも腹部の筋肉がちぎり取られ、内臓が露出。手足も皮膚が千切れていた。自分で自分の肉を食べていたのだ。
しかも、被験者はそんな状態にもかかわらず、拘束しようとすると超人的な速さで兵士に襲いかかり、かみ殺したという……。
【引用元】Creepypasta.com/Creepypasta.comhttps://www.creepypasta.com/the-russian-sleep-experiment/
……スプラッター映画というかゾンビ映画? この話のオチは、最後に生き残った人物が言うセリフだ。
「俺はお前たちの中に住む獣だ。俺は自由になった!」
眠らないことで心の中のデーモンが表に現れるという、キリスト教的な悪魔の話で終わるのだ。
悪魔が出てくる前に、今夜は早く寝ましょう。