■「発毛に御利益」で世界中から参拝者が!

「歳のせいか薄毛が気になる……」「生まれつきくせっ毛で、ツヤツヤの美髪に憧れる」などなど、“髪は長~いともだち”なんてCMもあったが、その分、お悩みも深いもの。そんな髪の毛に関する善男善女の願い事に御利益を下さる、「日本で唯一の「髪」の神社」を謳う激レア神社が京都に存在した。

 

日本で唯一どころか、世界でも稀な髪のお悩み専門のパワースポット。某M-1王者が「カミ頼み」していたとか、世界中から参拝客が絶えないなど、霊験あらたかな噂の絶えないこの神社、その名も「御髪(みかみ)神社」とそのものズバリ。

 

 神社で授けてくれるお守りも「福髪守」「大丈夫守」、さらには「房々守(ふさふさまもり)なんていかにもありがたい御利益がありそうなものばかり。世にも珍しい「髪の神社」とはいったいどんなところかというと──。

■ご祭神は日本における理・美容業の始祖

髪塚
御髪神社の本殿脇に建立された「髪塚」

 御髪神社は日本で唯一、理容・美容などの髪や化粧に携わる職業の始祖を祭神とする神社。創建は1961年(昭和36)と意外に新しく、京都市の理美容関係者によって建てられた。

 

 祀られているのは藤原采女亮政之(ふじわらのうねめのすけまさゆき)。政之の父・基春は亀山天皇(在位1259~1274)に仕え、宮中の宝物を管理する役目を担っていた。だが、宝刀「九王丸」を紛失してしまい、探索のために下関に居を移す。

 

 その間、政之は生活の糧(かて)を得るために女性の髪を結って父親をサポート。これが日本における髪結い職の起源であり、政之はその始祖とされている。

 

■観光客で大混雑の嵐山

竹林の小径
京都、嵯峨野といえば名所の「竹林の小径」。ここを抜けた先に御髪神社が。

 御髪神社が鎮座するのは京都の嵯峨野。嵐山とも呼ばれるエリアだ。最寄りの駅は嵯峨野観光鉄道のトロッコ嵐山。しかし、この駅は観光専用なので運行本数は少なく、運行時間も短い。運行期間も3月から12月までで、原則として水曜日は定休日だ。

 

 一般的な交通アクセス路線であれば、京福電鉄(嵐電)嵐山駅から徒歩約15分。JRの嵯峨嵐山駅からだと徒歩約20分となる。

 

 嵐山は清水寺のある東山や、京都随一の繁華街である四条河原町などとならぶ観光名所である。「これぞ観光地の玄関口!」という意匠の嵐電嵐山駅を出ると、世界中から訪れた観光客でごった返している。

 

 数ある嵐山の観光名所の中で、もっとも嵐山らしいといえるのが竹林の小径だ。嵐山駅に通じる道路から脇道に逸れると、見上げるばかりに伸びた竹が空をおおってそびえている。木漏れ日が差し込む風景は、幻想的でもある。けれども地上に目を移せば、記念写真や動画を撮る観光客で埋めつくされていて、のんびり絶景を楽しむ余裕はない。

 

■野宮神社から竹のジャングルへ

野宮神社
いにしえの神社の姿を今に伝える野宮神社。

 竹林のなかに鎮座しているのは野宮神社。平安時代初期の創建とされ、天皇の代理として伊勢神宮に仕える皇女や王女である斎王(さいおう)が身を清めた斎宮(さいぐう)でもあった。現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」でも注目されている『源氏物語』第十帖(第10巻)「賢木(さかき)の舞台でもあり、境内社の野宮大黒天は縁結びの神として有名。

 

 そして、この神社最大の特徴は、原木の皮をむかないまま造営されている「黒木鳥居(くろきとりい)だ。黒木鳥居とは日本最古の鳥居の様式とされ、また石や厚板の玉垣ではなくクロモジを使った小柴垣も古い形式だといわれている。つまり野宮神社は、いにしえの神社の形をそのまま残しているのだ。

 

 野宮神社前の角を西方向へ進むと、小倉山のふもとになる。この辺りも竹が生い茂っていて、竹林というよりも「竹のジャングル」とでもいえそうな雰囲気である。

 

■自分の髪の毛を献納できる御髪神社

小倉池
7月から8月にかけては美しい花が咲き乱れる小倉池。

 小倉山の急な山道をのぼり、突き当りを右折。しばらくすると見えてくるのがトロッコ嵐山駅。直進すればハスが群生する小倉池があり、池のそばの高台に鎮座しているのが御髪神社だ。小さな本殿は山の斜面に設けられていて、境内も広くはない。ただ、うっそうとした山林のなかにこぢんまりと納まっているたたずまいは、どことなく神秘的でもある。

 

 本殿の横には「髪塚」があって、ここには髪の毛を献納することができる。神職が専用のハサミで切ってくれる自分の髪の毛を献納袋に入れて髪塚に納めれば、御利益の効果も上がるということだ。

 

御神神社
理美容の祖を祀る神社だけに関連企業からの奉納が数多い。

 御髪神社のお守りにはクシやハサミをモチーフにしたものがあり、絵馬もクシの形になっている。なお、古来「クシ」には霊力が宿るとされており、クシという呼び名も「奇し」といった言葉が語源と言われている。参拝者は髪や美容の悩みだけではなく、理容師・美容師を目指す人や技術の向上を願う人も多く、資格試験などの合格祈願が記された絵馬も多い。また、理美容や頭髪関連の企業が奉納した玉垣も境内の周囲には並んでいて、おなじみの企業名が多く目についた。

 

■嵯峨野に眠る稀代の陰陽師

安倍晴明墓
最近ではマンガや映画、小説、さらには大河ドラマにまで登場し有名になった陰陽師・安倍晴明の墓

 御髪神社を出て嵐山駅に戻ろうかとも考えたが、人込みを避けるためにJRの嵯峨嵐山駅を目指すことにする。観光エリアから離れた閑静な住宅地を抜け、20分弱で駅に到着。だが、ここで嵯峨野をあとにするのはもったいない。実は嵯峨野には、平安ミステリーファンにとって欠かせない人物の墓所があるのだ。その人物こそ、稀代の陰陽師・安倍晴明だ。

 

 嵯峨嵐山駅から南へ約5分歩くと、嵐電の嵐電嵯峨駅がある。そこからさらに3分のところに「安倍晴明墓所」が位置している。墓所は住宅地の一画にあり、稀代の陰陽師の墓とは思えないほど簡素。観光客らしき人の姿も、ほとんど見えない。手入れはなされてはいるものの、侘しいたたずまいともいえなくはない。

 

 いまの京都といえば、「どこに行っても人、人、人」というイメージが強い。嵯峨嵐山も例外ではないが、御髪神社付近は比較的混雑が少ない。小倉山の森林の中で木漏れ日を浴びながら、人ごみの疲れをいやすにはちょうどいい場所だといえよう。