■メキシコの運河に浮かぶ「呪われた島」
メキシコの首都、メキシコシティのダウンタウンの南側、ソチミルコというエリアに、「呪われた心霊スポット」あるいは「世界七大禁足地のひとつ」として世界的に知られた「人形島(Isla de las Muñecas)」がある。
島のいたるところに生えている木々や建物には無数の腐った人形が吊るされ、訪れた人に不気味な威圧感を与えている。人形やぬいぐるみは魂が宿りやすいと言われるが、なぜ、こんな不気味な風景が出来上がってしまったのだろうか?
アステカ以来の伝統を色濃く残すエリアであるソチミルコは、運河が非常に多いことで知られる。運河のあちこちには、水面を覆う厚い水草層を切り取り、積み重ねて造った浮島の上に泥を盛り上げた人工島「チナンパ」が無数に造られ、伝統的に農業が行なわれている。
「人形島」はこのチナンパのひとつで、その呪われた歴史と、木や建物からぶら下がった数百体の人形が醸し出す異様な風景によって知られ、世界中の呪物ファンの心を惹きつけているのだ。
■少女の霊を追い払うために…
もともと、この島はフリアン・サンタナ・バレッタという男性が所有していた。1950年代のある日、彼はチナンパの岸辺で溺死している少女の遺体を発見した。それ以来、サンタナの身の回りで不可解な現象が相次いだ。恐怖に駆られたサンタナは、少女の霊を追い祓うため、流れ着いた不気味な人形を拾い集め、木に吊るすようになったという(注1)。
注1/一説には「亡くなった少女の霊を弔うため」だったともされるが真相は闇の中。
「少女の霊を追い払う」というサンタナの想いとは裏腹に、「島そのものが呪われている」という恐ろしい噂が流れた。湿地帯の瘴気(しょうき)でなかば腐ったものや、なぜか顔が焼けただれたものなど、不穏なものを感じさせる人形が無数にぶら下がる光景は、そんな噂が囁かれてもおかしくはない。そして、次第に怖いもの見たさや好奇心に駆られ、地元の人々が人形を持って集まるようになったという。
サンタナは特に若者が島に近づくことを許可。島を訪れた者はサンタナに感謝の気持ちを込めて人形を贈るようになり、彼の人形コレクションはどんどん増加した。こうして、いつしか島の人形は「悪霊除け」さらにはなぜか「豊作祈願」のご利益があると考えられるようになり、「人形島」は地元民にとってお守りのような存在として扱われるようになったという。
■島の持ち主の不可解な死
サンタナは50年以上に渡って人形を集め続けて島中の木々や建物に吊るし続けたのだが、2001年4月17日、少女の遺体が発見された同じ場所で心臓発作で亡くなってしまった──これだけ「悪霊祓い」の人形を吊るしたにもかかわらず、最期は溺死した少女の霊に連れ去られてしまったのだろうか……? 島の持ち主の不可解な死は「呪われた人形島」という噂にさらに拍車をかけることになった。
もともとソチミルコを流れる無数の運河は、1943年にメキシコの映画『マリア・カンデラリア』の撮影地として使われたことで有名になり、現在ではソチミルコ一帯が世界遺産にもなっている。そんな観光スポットの一角にひっそりと浮かぶ「人形島」も、ソチミルコを代表するひときわ異彩を放つ観光スポットとして人気になり、観光ツアーが組まれるようになった。
なお、サンタナの死後、島は彼の甥の所有となっており、現在もなお私有地なので、無許可での立ち入りは厳禁となっているのでご注意を。
■「偽物の人形島」にご用心を
実は現在、島の周辺には無数の「偽物の人形島」が存在する。
ソチミルコで人形島を訪れるにためは、派手に装飾された伝統的な遊覧船「トラヒネラ」をチャーターして片道1時間半から2時間ほど運河を進まなければいけない。「トラヒネラ」は人力船のため、現地の船頭はその時間をかけるのを嫌がり、近くに作られた「偽の人形島」へ案内するケースがあるという。
偽物の島と現地民に騙されず、生い茂ったジャングルをかきわけて運河を進まなければ辿り着けない禁断の場所、人形島。そこでは焼けこげたり、蜘蛛の巣に覆われたり、沼地の湿気で腐って異臭を放ちながら無造作にぶら下げられた呪われた人形たちが、世界中から訪れる呪物ファンを待ち構えているのだ。
(「人形島」を撮影した関連写真は次ページから)