■多くを望まず1つに集中!
神社に参拝したとき、「せっかく来たんだから」と、あれもこれもとお願いしたくなる人もいる。なのに、お賽銭は小銭。「ご縁につながるから」という理由で、5円玉1つしか納めない人もいる。
神様だからさすがに文句はいわないまでも、「せめて願い事は1つか2つにしてよ」と思っているかもしれない。しかし、奈良県御所市に鎮座する葛城一言主(かつらぎひとことぬし)神社に祀られる「葛城之一言主大神(かつらぎのひとことぬしのおおかみ)」は、はっきりとしている。
「願い事は1つだけ、しかも一言であらわすように」
これさえ守れば、何にでもご利益があるという。
■雄略天皇の前に現れた奇妙な神
葛城一言主神社の創建は不明だ。だが、『古事記』には、次のような記述がある。
第21代雄略(ゆうりゃく)天皇がお供の官人をつれて大和葛城山をのぼったときのこと、自分たちとまったく同じようすの行列を向かいの山の尾根伝いに見つけた。
「このヤマトには自分以外に大王はいないはずなのに、だれが同じような行列を組んでいるのか?」
天皇がそう言うと、向こうの行列からも同じような言葉が聞こえる。
「まねしやがって!」
怒った天皇と官人は矢をつがえる。すると、向こうの行列でも矢が構えられる。
「こしゃくなヤツめ、名を名乗れ!」
そんな天皇の問いかけに対して返ってきたのは、「わたしは悪いことも、良いことも一言でいい放つ神、葛城之一言主大神である」という声だった。
これにはさすがの天皇もびっくり。天皇といえども、神様にかなうわけがない。そこで雄略天皇は、自分の弓矢や太刀、官人たちの衣装を大神に献上したのだった。
この逸話の葛城之一言主大神が姿を現したとされるのが、葛城一言主神社の境内。雄略天皇は5世紀半ばに実在した天皇とされるので、少なくとも神社は1600年近い歴史を有するのだ。
■葛城の自然に溶け込んだ社
葛城一言主神社は、大和葛城山(やまとかつらぎさん)の東麓に東面して鎮座している。社殿に至るには長い階段をのぼる必要があるものの、駐車場からだとスロープ状の坂道となっているので、足に自信がない人や車いすの人でも大丈夫。
階段をのぼりきると、樹木に囲まれた境内が開ける。規模は、さほど大きくはない。本殿前の拝殿は重厚な唐破風造で、緑深い山麓を背にしたたたずまいは厳かだ。
拝殿前にはイチョウの大木があり、樹齢はなんと1200年だとか。幹から乳房のような気根(空気中に出る根)が多く垂れ下がっているので「乳銀杏(ちちいちょう)」もしくは「宿り木(やどりぎ)」と呼ばれ、子授けに御利益があり、また祈願すると母乳の出がよくなると伝えられている。
乳銀杏以外にもムクロジやカヤ、ケヤキにカイノキと神木は多く、葛城の自然に溶け込んだ古社であることが実感できる。