■大阪の海に浮かんでいた姫島
時間は過去に巻き戻せない。だから、過去の失敗はサラリと忘れ、新しい未来へ向かって歩むのがいい――と、いうことくらい頭ではわかっている。わかっているけれども、絶えず後悔がつきまとってくる。
「もっと勉強して、いい大学に行くべきだった」
「焦らずに、もっといい結婚相手を選ぶべきだった」
「あの時、酒さえ飲まなければ……」
悔やんでも悔やみきれない。できれば、もう一度やり直したい──そんな願いにご利益があるのが通称「やりなおし神社」こと、大阪市西淀川区の姫嶋神社だ。
姫嶋神社の鎮座する姫島は、今でこそ近隣地域とは地続きだが、かつてはその名のとおり「島」だった。古代の大阪平野の大部分は水面下にあり、いくつかの島がプカリプカリと浮かんでいる状態だったのだ。それらの島を総称して「難波八十島(なにわやそじま)」といい、その中の1つが姫島で「比売島(ひめじま)」の字があてられていたとする。
■DV夫に耐えかね逃げてきた女神
姫嶋神社の祭神は、阿迦留姫命(あかるひめのみこと)。『古事記』の応神記には、
〈むかし、新羅(しらぎ)の王子、天之日矛(あめのひぼこ)の妻となったアカルヒメは、常に美味しい食事を用意して夫に仕えた。だが、アメノヒボコは何かにつけて妻をののしる。
とうとうアカルヒメの堪忍袋の緒が切れ、『わたしはあなたの妻となるべき女ではありません。わたしの先祖の国へ帰ります』といい残して、難波にわたってきた〉
と記されている。ただ、祖国へ逃げてきたといっても、知人や縁者がいるわけでもない。それでもアカルヒメは新たな地で再起し、女性たちに機織りや裁縫、焼き物や楽器などを教え、病気に苦しむ人には治療を施していったのだ。
夫のDVから逃れるために新しい土地にわたり、そこで見事に再起を果たす。このことからアカルヒメは「決断と行動の神様」として信仰され、また何もない状態からスタートを切ったことから「やりなおしの神様」として崇められるのである。
■突如現れるインパクト十分な鳥居
姫嶋神社へは、阪神電鉄姫島駅より徒歩約6分。神社の周辺は戸建て住宅や低層のマンション、商店が整然と立ち並ぶ市街地で、比較的幅の広い2車線道路が縦横に走る。
そんな町中で突然、目に鮮やかな朱色と黒のコントラストがインパクトを与えてくれる鳥居が姿を見せる。かなり反り返った笠木が特徴的である。
姫嶋神社に神木は植えられているが、うっそうとした「社叢(しゃそう)」(※1)はない。そのぶん境内が広々とした印象を受け、町の風景にも溶け込んでいる。
※1 境内を取り囲む森や林、いわゆる「鎮守の森」のこと
鳥居をくぐり、右側に手水舎(ちょうずや)を見ながら参道を進むと、少し変わった光景がひろがっている。ホタテの貝殻らしきものが集められて積み上げられ、オブジェのように形づくられているのだ。