■全国の淡嶋系神社の総本社
安産や子授け、女性特有の病気の回復にご利益がある神社は多い。しかし、その祈願の方法が、少し変わっている神社がある。その方法とは「下着を奉納する」というものだ。しかも新品ではなく、はき古したものを。
神社の名前は淡嶋神社(あわしまじんじゃ)。全国に1000社余りある淡嶋神社系神社の総本社だ。鎮座しているのは大阪湾の南端近く、紀淡海峡に面した和歌山市加太(かだ)である。
神社の創建は仁徳天皇の時代と伝えられているので、およそ1600年前。加太の沖合に浮かぶ友ケ島に祀られていた少彦名命(すくなひこなのみこと)と大己貴命(おほなむじのみこと)を、天皇が現地に遷座したのをはじめとする。ちなみに、大己貴命とは「いなばの白ウサギ」で有名な大国主命の異名である。
この2柱に加え、淡嶋神社と縁が深く、仁徳天皇の祖母である息長足姫命(おきながたらしひめのみこと)も祀られている。なお、息長足姫命とは仲哀天皇の皇后で、以前は「日本史上初の女帝」とも言われた神功皇后(じんぐうこうごう)とされる
■「めでたい」電車でいざ神社へ
淡嶋神社へのルートは、電車であれば南海加太線の加太駅が最寄りだ。加太線に乗るには、大阪方面からなら南海本線和歌山市駅もしくは紀の川駅で乗り換えとなる。
加太線は観光列車に力を入れ手入れているのが特徴で、その名も「めでたいでんしゃ」。現在はピンク色の「さち」、水色の「かい」、赤色の「なな」、黒の「かしら」の4両が運行されている。このうち「かしら」は、和歌山市出身のミュージシャン、HYDEとコラボレーションされ、車内にはHYDEのシルエットやロゴマークも施されている。
和歌山市駅から約25分で加太駅に到着。駅舎は、加太線が加太軽便鉄道として開業した約110年前の姿を、ほとんど変えていないという。淡嶋神社へは、加太駅から徒歩約20分。住宅地を通り抜けると海が見えてきて、朱色の大きな鳥居が目に入る。
■境内を人形が埋め尽くす奇景
女性の悩みにご利益のある淡嶋神社だが、さらに有名なのは人形供養だ。例年3月3日には、舟に乗せた人形を海に流す「雛流し神事」が行なわれている。
淡嶋神社が人形供養の神社になったのは、紀州徳川家で姫君が誕生すると、初節句に一対の雛人形が奉納されたのがきっかけだ。やがて、ひな人形以外の市松人形や日本人形も持ち込まれるようになり、さらには招き猫やダルマ、動物の置物など節操がなくなり、境内はバラエティに富んだ様相を呈している。
鳥居と同じく、朱が鮮やかな本殿でお参りを済ませ、境内をめぐると、まず左側に針塚があり、ここには2月に行なわれる「針供養」で供養を受けた針が納められている。
針塚の奥にあるのが姿社。祠の中をのぞくと、少彦名命の神像の前に、子孫繁栄を願う陰陽石(男女のアレを模した石像)がならんで安置されているのがわかる。
■撮影厳禁!祠の中に“アレ”が…
姿社から神水の前を通って石段を上ると末社がある。ここには祭神と八百万の神が祀られており、淡嶋神社の大きなご利益である女性の悩みを祈願する社である。祈願成就を願う女性はここに下着を奉納するのだが、かつては「張り形(男性器を模したもの)」や髪の毛が納められたという。
末社の全面は格子で覆われているが、中を覗くことはできる。たしかに、大小さまざまな「張り形」が転がっている。また、下着は格子の隅の小さな窓を開け、奉納する仕組みになっている。ただし、内部はもちろん末社全体も画像撮影は禁じられているので、ご注意を。
淡嶋神社が女性の病気にご利益があるのは、少彦名命が薬や医療の神様だから、というのが神社の説明だ。しかし、本来の祭神は「淡島神」という女神だから女性への神徳が篤い、という説もある。淡島神が少彦名命に置き換えられたわけだが、地元では、
「淡島さんは女の神さんやから、アベックで行ったらヤキモチ焼いて別れさせられる」
と、まことしやかな噂がよく語られていた。
■古民家カフェで注目スポットに
参拝を終えて境内を出る。目の前は、淡路島と本州を結ぶ紀淡海峡だ。淡嶋神社ゆかりの友ケ島の姿もはっきり見える。
加太は太平洋自転車道の終点で、始点の千葉県銚子からは1400キロ。モニュメントを見れば、南に面した本州の太平洋岸の距離であることがわかる。
大阪湾の入り口である紀淡海峡は、淡路島と四国を結ぶ鳴門海峡と同じく、潮の流れが急なことで知られている。それは、淡路島と明石を結ぶ明石海峡も同じ。
鳴門と明石の名物といえば「タイ」で、加太の真鯛も名産だ。タイだけでなく、豊富な海産物が揚げられ、淡嶋神社の参道にある食堂で食べることができる。その1軒の名は“ドカ盛りシラス丼”で行列ができる「満幸商店」。関東からの観光客はびっくりの屋号だ。
そんな観光地の加太だが、近年はにぎわいも影を潜め、店を閉じた旅館や飲食店も数多い。しかし最近は、古い倉庫や商店をリノベーションした「古民家カフェ」などが増え、徐々に人気も高まりつつようだ。