■ご祭神の和気清麻呂をご存じ?

足腰の悩みにご利益があり、境内のあちこちにイノシシにちなんだものがあって、祀られているのは歴史上の実在した人物。
こんな、まるで謎かけのような特徴を持った神社が、京都市上京区に鎮座する。神社の名前は護王(ごおう)神社。主祭神は、奈良時代の貴族である和気清麻呂(わけのきよまろ)と姉の広虫(ひろむし)である。
名前を聞いて「あ~なるほど、あの清麻呂ね」と納得する方は、よほどの歴史通だろう。実はこの清麻呂がご祭神になった経緯には、日本を揺るがすような大事件が関わっているのだ。まずはその大事件の経緯を見ていこう。

■神託事件で配流&暗殺の危機!

「日本の三大悪人」に数えられた怪僧・道鏡が引き起こした「宇佐神宮神託事件」
画像:Public Domain
769(神護景雲3)年、称徳天皇に宇佐八幡宮の神託が奏上された。しかもその内容が、
「道鏡(どうきょう)が皇位につくべし」
というものだった。皇族でもない僧侶が皇位につくなど驚天動地の神託に朝廷は大騒動に。ただ、道鏡を寵愛していた女帝、称徳天皇は大乗り気で、宇佐八幡宮の求めに応じて女官の和気広虫を派遣しようとした。
しかし、広虫は「病弱で長旅に耐えられないので……」と固辞。代わりに弟の清麻呂が派遣された。ただ、清麻呂が持ち帰った報告で再び朝廷は大騒動に。なんと神託の内容がニセモノだというのだ。

神託のウソを暴いたために清麻呂は命の危険に……。
画像:Public Domain
これが世にいう「宇佐神宮神託事件」で(詳細はこちらの記事を参照)、激怒した称徳天皇と道鏡は、清麻呂を大隅国(鹿児島県)、広虫を備後国(広島県)へ配流してしまう。しかも、このとき道鏡は清麻呂の足の腱を切って歩けなくし、暗殺のため刺客を送ったと伝えられる。
■謎のイノシシの加護で無事参拝

ニセの神託を奏上した側でなく、ニセモノと報告した清麻呂を罰するあたりに闇の深さを感じるが、当の清麻呂は自らの不遇を嘆かなかった。それどころか、道鏡の皇位就任を阻んだお礼のため、都から大隅へ向かう途上、宇佐八幡宮に立ち寄ろうとする。そして、そんな清麻呂の背後に迫る刺客たち……。
清麻呂の一行が豊前国(福岡県)に至ると、突然、山の中から300頭ものイノシシが現れ、清麻呂の乗る輿の周りを囲み、宇佐八幡宮まで10里(40キロ)以上の道のりを案内したのだ。
イノシシたちの警護によって清麻呂は無事に参拝を済ませることができた。そしてイノシシたちは、清麻呂の安全を確かめると忽然と姿を消し、清麻呂の足も快癒して歩くことができるようになったのだった──。
これが護王神社に伝わる、清麻呂とイノシシ、そして、足腰のご利益に関する由来だ。

伝説の残る足立山(北九州市小倉北区)の登山口には清麻呂とイノシシの像が。
画像:Koda6029, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons