ヒトラーを操った超能力者、第三帝国の予言者など数々の異名を取り、ヒトラーの演説術や大衆心理の操縦術まで指導したとの都市伝説があるエリック・ヤン・ハヌッセン。前編ではヒトラーに出会うまでの謎めいた生涯を追ったが、続く後編では、暴かれた実像と不可解な暗殺の謎に迫ろう。
■ヒトラー首相誕生を雑誌で予言

ヒンデンブルグ大統領(右)が首相に任命する可能性はゼロと思われていたが…
画像:Bundesarchiv, Bild 183-S38324 / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 DE , via Wikimedia Commons
乱交パーティーがきっかけで(!?)出会ったハヌッセンとヒトラー。しかし、当時「二人のH」と呼ばれるほど蜜月関係になったのはなぜか? その謎を解くカギは、二人の出会いから少し遡ることなる。
ヨーロッパ中で「世紀の魔術師」と絶大な人気を博し、莫大な富とセレブ人脈を築いていたハヌッセン。しかも、彼は商才にも長けていた。
1931年には印刷所を買収し、自らの名を冠したオカルト雑誌「ハヌッセン・マガジン」(注1)を創刊。さらに翌年4月には隔週のタブロイド紙「ベルリンニュース通信(Berliner Wochenshau)」も創刊し、わずか1年足らずで発行部数が数十万部に膨れ上がったという。
ここでハヌッセンは、熱狂的にナチス党支持を展開。ナチス幹部を占星術で占い、どれだけ優れた人物か分析するという懇切丁寧な記事まで載せた。さらに1932年3月、「ハヌッセン・マガジン」では、
「1年以内にアドルフ・ヒトラーが帝国首相に就任する!」
と、彼の千里眼で見通した「ヒトラー首相誕生の予言」を書き立てた。
■ナチスに莫大な資金援助も

世界的な超能力者ハヌッセンの予言をナチスはプロパガンダに利用した。
画像:shutterstock
ヨーロッパ中を席巻するカリスマ超能力者に“お墨付き”を貰ったヒトラーやナチス党幹部は、もちろん、ハヌッセンの予言をプロパガンダに活用し支持を広げた。
しかも、莫大な資産から多額の資金援助も受け(ヘルドルフに至っては、個人的に2億円以上借りていたとの話も)、ナチスとしては宣伝とカネの両面でハヌッセンは手放せない存在だったのだ。
一方、ハヌッセンがなぜ、これほどヒトラーに入れ込んだのかは謎が残る。一説には、数か月違いの同じ年に、同じオーストリア=ハンガリー帝国で生まれ、家庭的に恵まれない少年時代を過ごしたなど、奇妙なほどの共通点に、ハヌッセンが親近感を抱いていたともいう。
もちろん、政財界などセレブ人脈をさらに広げるうえで、急速に勢力を拡大し、野党第一党に躍り出ていたナチス党と結びつくことは、ハヌッセンにとっても魅力的だっただろう。
ただし、一見、蜜月状態のハヌッセンとヒトラーだが、そこには「決定的な溝」が存在した。そしてそれは、思わぬところから明るみに出るのだ──。