現在、タイに出張中のカワノアユミ。今回も前回に引き続き、かつてバンコクでライターとして活動していたオカダさん(仮名)に聞いた話をお届けする。
前回、パタヤの夜の街に現れる「赤い服の女」の噂について語ってくれたオカダさん。実は彼の話によると、タイには”赤い色”にまつわる奇妙な話や都市伝説が、ほかにもいくつか存在するのだという──。
■「赤い服の女」がバンコクにも出現

一見、ごく普通の通りだがなぜか事故が多発。その原因は……(写真はイメージ)。
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「最初に聞いたのは、バンコク東部の”ある大通り”にまつわるものでした」
オカダさんが挙げたのは、大学やナイトマーケットが立ち並ぶエリア。地元では知られた通りだが、以前から「なぜか事故が起きやすい」との噂があった。
「ある年の夏、タイ人の若い男の子がバイクを走らせていたところ、突然、車に衝突されるという事故があったんです。しかも、事故の直前に”赤い服を着た女性”が路肩に立っていたと言うんです」

その女は振り返ってニヤリと笑っていた……そんな証言が一部ではささやかれていたという。
「もちろん、単なる見間違いかもしれません。でも、それ以来、その通りを通るドライバーのあいだでは”赤い服を着ている女を見たらよくないことが起きる”という話が広まったそうです」
■別の意味でも赤は「危険な色」?

また、タイで”赤”が特別な意味を持つ背景には、もうひとつの理由がある。
「例の“赤シャツ”ですよ。政治的な意味をもつ色なんです」
タイでは2006年のクーデターをきっかけに緊張が高まり、2010年にはバンコク中心部で大規模なデモが発生。軍との衝突で多数の死傷者が出るなど、社会を揺るがした。その渦中で、政治改革や民主化を訴える市民運動の一部に、赤いシャツを着て抗議活動を行なうグループがいて、”赤シャツ隊”と呼ばれた。

もともとはタクシン元首相を支持するグループのシンボルカラーだったとされる。
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「当時は、ただ赤いシャツを着ていただけで”政治的立場を示している”と見なされることもあったんです。実際、誤解された観光客がトラブルに巻き込まれたという話も耳にしました」
文字どおり政治的な「色」を帯びたアイテムや服装は、地域や場面によっては思わぬ誤解を招くことがある。実際、在タイ日本国大使館では過去に、赤シャツ隊の集会が予定されていた時期に「赤い衣服の着用には注意を」とする呼びかけを行なったこともある。
「赤い服を着ている=危険というわけではないのですが、その色が持つ文脈を知らずにいると現地の人たちの”見る目“が変わってしまうこともあるんです」