古井戸を粗末に扱うと……(写真はイメージ) 画像:shutterstock

 

 井戸を勝手に埋めてはいけない――。

 

 それは昔から言い伝えられてきた“土地の理(ことわり)のひとつだ。誰かが祈り、棲み、長く時間が積もってきた場所には、守らなければならない決まりごとがある。

 

 そうした“目には見えないルール”や、土地や家に漂う違和感を、建築業界の職人たちは肌で感じることがあるという。

 

 京都で工務店を営む田宮翔太さん(仮名・50代)は、この道35年のベテラン職人。今までいくつもの新築施工やリフォームを担当してきた。その中で経験したゾッとする話を語ってくれた。

 

 

■ベテラン職人も震え上がった現場

 

ワンルームマンションのイメージ

そこは一見ありふれたワンルームマンションだったが……(写真はイメージ)

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「僕は幽霊やオカルトに無頓着な人間ですが、『ココ嫌やな』って思った現場はいくつもあります。お客様の家に行って中に入ったときに、変な感じがしたり。言葉では説明できない“何か”と、たまに遭遇します。

でも、『嫌な予感がするからやめとく』なんて、通用しないじゃないですか。ただ、あの仕事だけは泣いて逃げ出したかったです……」

 

 今から約5年前、田宮さんは大阪市内のとあるワンルームマンションの室内塗装を任された。その現場で不可解な出来事があったそうだ。

 

 

■部屋中に充満する“嫌な気配”

 

ワンルームマンションのイメージ

田宮さんがドアを開けた瞬間、その部屋には「厭な気配」が充満していた。

(写真はイメージ)画像:shutterstock

「繁華街から少し離れた場所にある、単身者向けの賃貸マンション。その一室で、退去後の原状回復工事として、塗装を担当することになりました。とくに難しい作業でもなかったので、僕ひとりで現場に向かいました」

 

 一見、なんの変哲もない5階建てマンションの3階。だが、東向きの角部屋の玄関ドアを開けたとき、田宮さんは息を飲んだ。

 

「直感で『……違うわ』と感じて。思わず、反射的にドアを閉めました。何が違うのか、自分でも分からなかった。けど、とにかく『入りたくない』と身体が拒否していたんです」

 

 感じたことのない“嫌な気配”に身震いした彼は、「材料を忘れた」などとムリヤリ言い訳して、その日は撤退したという。