■「土ある場所」を司る神とは?

さらに陰陽道では、土を司る「土公神(どくじん/どこうじん)」という神様が存在する。土用の期間中には、土公神が土中に宿り、地上を支配していると考えられていた。そのため、農作業や建築作業、埋葬など、土用の日に地面を掘り返す行為は、土公神を怒らせて祟りを招くと信じられていたのだ。
ただし、土用期間には「間日(まび)」と呼ばれる例外日があり、その日だけは土を動かしても構わないとされている。間日は土公神が天上に出かけているため、地上を留守にしているからだ。
「土用や間日を基準に工事スケジュールを組んでくれる人もいますね。実際に、土用の日に工事をして事故が起きたり、怪我をしたりといったウワサはよく耳にします。京都や奈良飛鳥など、古くから栄えていた土地の人だと六曜も意識していて『この日は仏滅やから、やめとこう』と考える人が多いです」
■仏滅に家を建て始めた施主は…

六曜とは歴注(※暦に記載される日時・方位などの吉凶、その日の運勢などの事項)のひとつで、先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口からなる。
特に仏滅は「万事に凶とする大悪日」とされ、一昔前なら「結婚式などの祝い事をやるなら仏滅は避けたい」と考える人も多かった。しかし今では迷信と捉える人も増え、冠婚葬祭でも気にされなくなってきている。
だが、建築業界ではいまでもこのタブーは”生きた常識”なのだとか。田宮さんは現場に足場を組むときも、六曜を意識しているという。
「最近の人は六曜なんて気にしなくなっていますが、やっぱり昔からの言い伝えを軽視すると、何か痛い目に遭いますから……。以前に関わった新築施工の現場で、仏滅の日に着工した家がありました。
施主さんがそういった縁起を気にしない人だったんですが……実は、家を建てている最中にその施主さん自身が酷い交通事故に遭ってしまったんですよ……」
施主の男性は車を運転中に大事故に遭い、生死の境をさまよった末、全身不随で車椅子生活を送らざるを得なくなったそうだ。
「施主さんがそんな状態になってしまったので、家の内部も急きょバリアフリー仕様に変えることになって……本当に気の毒でした」
仏滅の日に家を建て始め、その後に事故。因果関係は天のみぞ知るところだが、もし仏滅を避けていれば何か違ったのだろうか……。
【後編・霊能者もお手上げの『現場怪談』とは?】は6月15日公開予定
張麗山「日本古代における呪術的宗教文化受容の一考察―土公信仰をてがかりとして」(『東アジア文化交渉研究』第6号,2013年)
西山孝樹・藤田龍之・知野泰明「わが国の平安時代における「土木事業の空白期」に関する研究」(『土木学会論文集D2(土木史)』Vol.68 No.1,2012年)
中尾聡史『日本における土木を巡る 心意現象に関する歴史民俗研究』京都大学,2018年