今や空前の実話怪談ブーム。さまざまな怪談師がこぞって「ほんとうにあった怖い話」を披露しているが、その中にひとり、異彩を放つ人物がいる。社員怪談師の近藤嘉貴さんだ。今回から前中後編の3回にわたり、近藤さんが「とあるお仕事」で実体験してきた怪異体験について語っていただこう。 

 

特殊清掃業界初の「語り部」として 

 

 近藤さんの本業は、奈良県に本社を置く「関西クリーンサービス」の特殊清掃員であり、遺品整理士。業界歴15年で、これまでに数万件の孤独死、自殺、事件現場の清掃や遺品整理などに携わってきた。血痕が飛び散った部屋や、体液が染みついた床、無数の虫が巣食うゴミ屋敷など、悲惨な光景を何度も目にしてきたという。 

近藤嘉貴さん
社員怪談師の近藤嘉貴さん。X:@ KONDO_Kclean

 そんな近藤さんは業界初の“語り部”として、現場で体験した不可思議な出来事と、そこに潜む社会の闇を、怪談という形で伝えている。しかし最近では、 

 

「“普通の感覚”がわからなくなっている自分が怖い」 

 

 と感じる瞬間もあるそうだ。特殊清掃や遺品整理の現場では、それほどまでに常識では考えられないことが多すぎるのだとか。 

 

 いったい、彼は何を見てきたのか……今回は、「遺品整理」や「片付け」の現場で遭遇した、背筋が凍る話を語ってくれた。 

 

 

■依頼主は古い長屋で暮らす美女 

 

古い長屋

現場は依頼主とはミスマッチな古ぼけた長屋だったという(写真はイメージ)

画像:shutterstock

「これはある現場で見た怖くて哀しいお話です。うちの会社は特殊清掃だけでなく、通常の引越しや不用品回収もやっているのですが……あるとき、長屋に住む若い女性から引越しと片付けのご依頼がありました」 

 

 その依頼者は古い長屋に一人で暮らしており、近藤さんいわく「すごくキレイでモデルのような人」だったそうだ。美女と古い長屋──その組み合わせに少しだけ異質さを感じながらも、何の変哲もない、ただの引越し作業と思っていた近藤さん。しかし長屋の中で“あるもの”を見て、驚いたという。 

 

「キッチンにどーんっと、業務用の大きな冷蔵庫と冷凍庫が置いてあったんです。レストランの厨房にあるような、無骨な見た目で扉が観音開きのやつです。 

 一般家庭で使うようなものではないので、『なんでこんなん置いてんあんねん』ってびっくりしましたね。引っ越し先には持っていかないそうで、置いていくと聞きました」 

 

 少し不思議に思いつつも、近藤さんは「きっと料理が好きで、設備にこだわっている人なんだろう」と思ったそうだ。ところが、キッチンの片付けをしていると、違和感がじわじわと襲ってきた──。 

 

 

「絶対に中を見ないで」というが… 

 

引っ越し作業

人の手には余る大型冷蔵庫。そのまま放置のはずだったが……(写真はイメージ)

画像:shutterstock(生成AI画像)

「料理好きにしては、キッチン周りの道具が少なすぎる。コンロは一口だけの簡易的なもので、鍋や食器も一人用のものしかない。なのに冷蔵庫と冷凍庫だけが立派。おかしいなと思いながら作業を進めました」 

 

 何かがおかしい──そう思いながらも、黙々と作業を進めていた近藤さん。終わりが見えてきた頃、女性から「やっぱり冷蔵庫と冷凍庫も引越し先に持っていきたい」と申し出があった。 

 

「ただ条件があって、『絶対に中を開けないで持っていってください』と言うんですよ。ただでさえ重量があるのに、中身を出さずに持っていくなんて絶対にムリです。『引越し先に持っていくのなら、中を整理させてほしい』とお願いしましたが、うなずいてくれなくて……。結局、新居に持っていくのは諦めていただきました」 

 

かたくなに「中身を見るな」と言う依頼者。近藤さんは「いったい、冷蔵庫と冷凍庫に何が入っているんだ……?」と、不思議で仕方なかったという。