■「開かずの冷蔵庫」の中には…

「絶対に中を見るな」という冷蔵庫の中には……!?(写真はイメージ)
画像:shutterstock(生成AI画像)
いざ引っ越しの準備が終わり、新居に移動となった。依頼者に搬出完了と移動を伝えようとした近藤さんだったが、彼女の姿がどこにも見当たらない。もう外で待っておこうか――……そう思い、玄関に向かうべくキッチンの前を通ったときだった。
「冷蔵庫と冷凍庫の扉が、全部開いていたんですよ……中からは冷気の白い煙がもくもくとモヤのように立ち上っていて。『え!? 開いてる!?』と思った瞬間、もっと驚く光景が目に入ってきました。
冷気の渦の奥に、依頼者の女性がいらっしゃって……開け放された扉の前に立ったまま、目をつぶって、何かに頬ずりしていたんです。その何かは……凍った動物の死体でした」
冷蔵庫と冷凍庫の中には、犬や猫、小動物などの死体が、何十匹もびっしりと詰め込まれていた。あまりの恐怖に、近藤さんはその場で固まってしまったという。
■振り返った女の目に宿るのは
「彼女は完全に自分の世界に入っていて、こちらにはまったく気づいていない。冷蔵庫や冷凍庫から死体を取り出しては、一匹一匹に想いを馳せるかのごとく、ずぅっと頬ずりしていました……」
本能的に逃げたくなった近藤さんだったが、足がすくんで動かない。むりやり後ずさりしようとしたそのとき、床を「キィ」っと鳴らしてしまった。

こちらを振り返った女の目には……(写真はイメージ)
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「その瞬間、彼女が僕に気づいて……。顔を上げて、絶対零度の目つきで睨みつけられました。まるで、『見たな』『秘密を知りやがって』と言わんばかりに……」
女性は一言も発さず、刺すような鋭い視線でただただ近藤さんを見つめていた。血の気が引き、玄関の外へと逃げ出した近藤さん。その後、依頼者は何事もなかったかのように家から出てきたという。
「アレは何だったんですか、とも聞けないし、事務的な会話だけをして、その現場の引越し作業は終わりました。結局、あの冷凍庫と冷蔵庫はご自身で何とかすると仰ったので、我々は中身も触っていないし、その後どうなったのか、わかりません」
■冷蔵庫に封印されていた何か
冷蔵、冷凍された何十匹もの動物たち。もしかしたら依頼者の女性は、愛したペットの遺体と離れられず、時を止めたまま、いつまでも傍に置いておきたかったのだろうか……。
近藤さんによると、亡くなったペットの火葬を待つあいだ、遺体を冷凍保存する人はたまにいるらしい。
「でも、いくら冷やしたり凍らせたりしたところで、いつかは腐敗しますからね……。色も変わるし、中にはミイラ化する個体だってあるでしょう。
さまざまな現場に携わっていると、愛着があったモノを捨てられなかったり、手放せない方とよく出会います。彼女も、そうだったのかもしれません」
筆者自身、愛猫の死がいまだに悲しく、遺毛を手元に残している身だ。きっと彼女も、飼っていた動物たちを愛していたのだろう。しかし、そこにあったのは“喪失の悲しみ”だけだったのか……。
最後に近藤さんは、静かにこう漏らした。
「ただ、あの夏に見た冷たくてゾッとする目つきは、今でも忘れられません……」
冷蔵庫と冷凍庫は、彼女の心の奥にある“何か”も凍らせたまま閉じ込めていたのかもしれない。
──次回、中編(6月28日18:00公開予定)では、近藤さんが「今でも忘れられない奇妙な出来事」と語る怪事件について語っていただく。
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近藤さんが出演中のポッドキャスト。
遺品整理や特殊清掃の現場で直面したリアルで不思議、そしてちょっと怖い体験を赤裸々に語り、その裏側にある社会問題にも迫ります。