冷蔵庫にぎっしり詰められた、凍った動物の死体──特殊清掃員・近藤嘉貴さんが体験した、引越し現場での“異常な光景”を前編では紹介した。今回は、ある家財整理の現場で起こった、忘れがたい“奇妙な出来事”について語ってもらおう──。

■依頼主は暗い雰囲気の夫婦
「これは当時の新聞にも載った実話です。今から10年以上前の夏の終わりに、とあるお宅から、不用品回収のご依頼をいただきました。依頼者の方のお宅は賃貸ハイツの一室で、私が一人で見積もりに行かせていただくと、暗い雰囲気の男性が出迎えてくれたんです」

男性に名刺を渡し、挨拶をした近藤さん。部屋に入ると電気は一切ついておらず、妻と思われる女性が床にポツンと体育座りをしていたという。
「訪問したのは夕方でしたが、秋口ということもあり外からの光も入らず、電気もつけていないので部屋が真っ暗で……。ご夫婦ともに40代半ばくらいの見た目でしたが、とにかく二人の雰囲気が異様に暗かった。
事前にいただいていた連絡では、『家を引き払うから荷物をすべて処分してほしい』とのことだったので、てっきり引越しに伴う家具や家電の買い替え処分かと思っていました。そういう方からの依頼も、けっこう多いので。でも、旦那さんと話していると、どうもただの引越しとは違うぞ……と」
■何もかも捨ててくれと言う二人

とにかく全て捨てて空っぽにしてほしいという奇妙な依頼に近藤さんは……。
(写真はイメージ) 画像:shutterstock
「もしかして離婚案件では?」とピンときた近藤さんだが、お互いに会話もアイコンタクトもない夫婦の様子を見て、それにも違和感を覚えたという。
「離婚される方の不用品処分だと、『これは私が持っていく』『じゃあこれは俺が』と、何を処分するのかハッキリ決められていることがほとんどです。でもこの現場では、『全部処分でいい。部屋を空っぽにしてくれ』と。何かおかしいと感じました」
しかし、何かを聞いたり雑談したりできる空気でもなく、その日は淡々と見積もり作業だけを終えて帰ったという。
「後日、改めて回収作業に行かせていただくと、旦那さんがハイツの下に自家用車を停めて待っていました。普通なら、大きい家具や家電は処分しても、洋服などこまごまとしたものは引越し先に持っていきますよね。
それすらも処分してくれというので、「何かおかしい」とザラザラした胸騒ぎを感じながらも、言われるがまま全部の荷物を回収しました」
近藤さんたちが作業しているあいだも、見積もり時と同じく、一切言葉を交わさず、ただならぬ雰囲気をまとった夫婦。その暗さが、近藤さんはやけに引っかかった。