■謎の番号から着信で事態急転!

奇妙な依頼から1週間後、突然、見知らぬ番号から着信が……。
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「作業完了後、ご夫婦は何も荷物を持たず、身ひとつで車に乗り込み、どこかに走り去っていきました。その一週間後です。私の携帯に見知らぬ番号から電話があったのは」
近藤さんのもとにかかってきた電話。それは、奈良県の某警察署からだった。
「あの夫婦の件で、『話を聞かせてくれ』と。いったい何事かとびっくりしました。事情を聞いても『とにかく署に来てくれ』の一点張りだったので、仕方なく警察に行きました。
窓口に行くと、担当の刑事さんがやってきて、なかば拘束される形で取調室に連れて行かれたんです……」
わけのわからぬままでいると、刑事から「あの夫婦、何があった? 何かあったんやろ」と聞かれたという。
「何のことだか、まったくわからなくて。混乱していると、刑事さんが『これ何かわかるか。お前のやろ?』って、透明なビニール袋を出してきました。その中に、ぐちゃぐちゃに丸められた私の名刺が入っていて……。
私が自分のものだと認めると、そこでやっと、刑事さんから説明がありました。あの夫婦、旦那さんが奥さんを殺していたんです……」
■退去後の夫婦を襲った悲劇

夫婦はさまよった末ラブホテルで……
(写真はイメージ。記事中のホテルとは無関係です) 画像:shutterstock
警察によると、夫婦は家を引き払ったあと、車で行くあてもなくあちこちを彷徨(さまよ)っていたらしい。最終的に奈良県内にあるラブホテルに入り、室内で夫が妻の首を絞めて殺害したという。
「旦那さんは自分も死のうとしたけど死にきれず、車で逃走。ラブホテルのスタッフが奥さんの遺体を見つけ、警察に通報したそうです。旦那さんはその後、県境を越えた山中で発見されました。鬱蒼(うっそう)とした原生林の中で、生きたまま木の下でうなだれていたそうです」
警察が夫を確保したとき、彼は右手で何かを強く握りしめていた。刑事が「その右手なんやねん! 開かんかい!」と声をかけたところ、夫はゆっくりと手を開いた。そこにあったのは……。
「私の、名刺です。なぜ彼がそれを握りしめていたのか、理由はわからないままです。ぐちゃぐちゃになった心を片付けてほしかったんでしょうか……」
警察の調べに対し夫は「一緒に死のうと思って首を絞めた」と、心中を図ろうとしたことを認めている。その後、夫は嘱託殺人で起訴された。
■偶然か、それとも…残された謎

彷徨の末、森の奥で警察に確保された夫。その胸に去来していたのは……。
(写真はイメージ)画像:shutterstock
「死を決心していたから、二人ともあんなに暗くて重たい雰囲気だったんでしょうね。特殊清掃の現場だと、老々介護の果てに……といったケースもたまにあります。でも、あのご夫婦はまだ若かったのに」
それにしても……と、近藤さんにはどうしても気になることがあるという。
「弊社の名刺には、顔写真が入っているんです。顔写真をぐちゃぐちゃに握りしめるって、どんな心境だったのか……。私が作業したせいで取り返しのつかないことになった。引き返せなくなった。そんな恨みで握り締めていたのでしょうか……」
奇しくも、夫が逮捕されたその日、実は夫が確保された現場からさほど離れていない場所で、たまたま近藤さんも仕事をしていたそうだ。
「たまたま……本当に偶然とは思いたいのですが、何かの念、何かの思いがあって、旦那さんは私のことを追いかけていた──そう思うと怖いし、ゾッとするんですよね。なぜ最後に握っていたのが、私の名刺だったのか。考えてもわからない。いくら考えても答えは出ないんです……」
拭いきれない不穏さが、今も近藤さんの心の奥底でくすぶり続けている。
──次回、後編(6月29日18:00公開予定)では、近藤さんが遭遇した「故人が遺した人形にまつわる怪異」について語っていただこう。
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近藤さんが出演中のポッドキャスト。
遺品整理や特殊清掃の現場で直面したリアルで不思議、そしてちょっと怖い体験を赤裸々に語り、その裏側にある社会問題にも迫ります。