■物語の舞台設定、中途半端な田舎感の面白さ

「主人公たちが住んでいるサンポ市は架空の街で、最寄りの電車の駅名も実在しません。日本でいえば、東京近郊の県に当たる京畿道(キョンギド)の中でも、ソウルからかなり離れているという設定です。その舞台で、韓国の一般的な庶民のリアルな生活が生々しく、実直に描かれています。

 田園風景が広がる街は京畿道の漣川郡で撮影されたそうですが、その中途半端な田舎感が、登場人物たちの孤立感、未来に対する絶望感の要因になっています。それと同時に、大都会ソウルではなく、自然の中で暮らす人々の芯の強さにも繋がっていると感じます。そして、ソン・ソック演じる謎を秘めたグ氏との出会いから始まる物語も、ソウルと電車で繋がるこの中途半端な田舎じゃないと成立しないのです」(ユン氏)

『私の解放日誌』画像:JTBC

■登場人物の会話がリアルで、独特なセリフも話題に

「きょうだいの会話はもちろん、彼らが会社の同僚たちと交わす日々の話が、非常にリアルで面白いです。そのなかで、韓国人も普通は使わない表現が突然セリフに出てくることで、作品の根底に流れるテーマを自然に意識させられます。

 韓国で何より話題になっているセリフは、ミジョンがク氏に唐突に言った、“나를 추앙해요(私を推仰しなさい)”です。“추앙(推仰)”は日本語でいえば“崇拝”のようなニュアンス。すなわち「私を崇めなさい」の意味ですが、“추앙(推仰)”は韓国では日常生活でほとんど使わない言葉なので、検索ランキングの上位にものぼっていたほどです」(ユン氏)