今年のカンヌ国際映画祭で主演男優賞(是枝裕和監督作品『ベイビー・ブローカー』)を獲った韓国の名優ソン・ガンホ。20年以上トップを走り続けているソン・ガンホの傑作選、後編はイ・チャンドン監督作品から。※カッコの年号は韓国公開年

■『シークレット・サンシャイン』イ・チャンドン監督(2007年)

 田舎町に息子と二人で引っ越してきたが、最悪の状況を迎える女(チョン・ドヨン)。都会風を吹かせるあまり地元民には嫌われ、救いを求めてすがりついた宗教にも裏切られる。例外は自分を好いてくれる冴えない男やもめだけだが、彼のやることなすこと、ひとつとして心に響かない。

 その男やもめを演じるのがソン・ガンホだ。脂っこい慶尚道訛り。無様に近い滑稽。小者で俗物。トランクスの下からのびる大腿には筋肉もなく頼りない。間も悪い。追いつめられた女がすがりつこうとしたとき、男は仕事場で一人カラオケを楽しんでいた。

 難しい役である。物語が終わるとき、男は救いの神になれたのかどうか、みなさん自身の目で確かめてもらいたい。

■『義兄弟 SECRET REUNION』チャン・フン監督(2010年)

『ベイビー・ブローカー』同様、ソン・ガンホ&カン・ドンウォンコンビの映画だ。

 南側の国家情報要員(ソン・ガンホ)と北側工作員(カン・ドンウォン)が互いの正体に気づかぬふりをしながら興信所の社長と部下として働き、同じ部屋で暮らす。

 腹の探り合いなのだが、寝食を共にし、共同作業を積み重ねるうちに心を開いていく。国と国ではなく、人と人との関係になっていくのだ。詳述は避けるが二人がいっしょに祭祀を行う場面では涙を禁じ得なかった。

 南北分断ものなので血なまぐさいシーンもあるが、前項の『シークレット・サンシャイン』と比べれば、安心して観ることができる作品だ。後味もよい。

ソウルのホテルPJ(旧プンジョンホテル)とつながる三豊商街のビル。『義兄弟 SECRET REUNION』の終盤の戦闘シーンはこの辺りで撮影された