■『弁護人』ヤン・ウソク監督(2013年)
ソン・ガンホが弁護士時代の廬武鉉(ノ・ムヒョン)を演じた。
敵役の一人が体制側の警監に扮するクァク・ドウォン。映画『悪いやつら』がいい例だが、権力側のふてぶてしい役人を演じさせたら他に抜きん出る者のいない俳優だ。この二人の法廷での舌戦が見ものである。
弁護士「学生が本を読んで討論したことが国家保安法違反かどうか、証人はどう判断したのですか? 根拠は何ですか?」
証人「私ではなく国家が判断するのです」
弁護士「国家!? 証人の言う国家とは何ですか?」
証人「弁護士のくせに国家も知らんのか!?」
弁護士「よく知っていますよ。(中略)国の主権は国民にあり、すべての権力は国民に由来するのです。国家とは国民のことなのです!」
韓国人も日本人も、もう一度肝に銘じるべき言葉ではないだろうか。
■タクシー運転手 約束は海を越えて』チャン・フン監督(2017年)
終盤のカーチェイスシーンに少々やり過ぎ感があり、手放しで称賛できない映画だが、細部にいい場面が2つある。いずれも食べ物に関係する。
ひとつはタクシー運転手(ソン・ガンホ)とドイツ人記者が、光州のタクシー運転手(ユ・ヘジン)とその妻(イ・ジョンウン)の家で夕飯をごちそうになる場面。
「大事なお客さんなのに、これしかおかずがないのか?」
お膳には牛肉らしきものの煮物、テンジャンチゲ、南道名物の芥子菜キムチ、サワガニの醤油漬け、どんぐりの澱粉を固めたもの、蓮根の煮物、豆モヤシやホウレン草のナムル、大根の干し葉のスープに山盛りのごはんが載っている。じゅうぶん過ぎるボリュームだ。
「HOT!」
芥子菜キムチの辛さにびっくりした記者が運転手に笑いかける。小さなお膳を分かち合いながらみんなが笑う。とても美しい光景だ。
そして、もうひとつは運転手が大衆食堂でククスを食べる場面だ。
小さな娘を一人ソウルの自宅で留守番させている運転手は、記者を残して光州を立つ。途中、順天バスターミナルの食堂でククス(そうめん)を頼む。食堂の他の客たちの会話から光州の実情がまったく外部に伝わっていないことを知り、さまざまな思いがあふれてくるが、それをそうめんごと飲み込もうとする。
「お腹が減っていたのね。これもどうぞ」
女将がサービスで小さなおにぎりをくれた。
「美味しいです」
理不尽な目に遭いながらも他者への施しを忘れない人々にふれた運転手が、本当の意味で田舎の情を知った瞬間だった。