当初、いついかなるときも冷静なキャラかと思って観ていた『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』のユ・ジテ(1976年生まれ)扮する通称「教授」だが、途中から意外な人間味を見せ始める。そんなところも含めてミステリアスな彼の魅力を、主演映画を通して見てみよう。

ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』の冒頭数分は、朝鮮半島の人々が南北を自由に行き来する様子が描かれている。もう忘れている人も多いが、現実に少なくとも南側の人たちが北側を旅行できた時期があった。写真は2008年、筆者(左)が都羅山からバスで開城を訪問したとき、北側の文化解説員の女性と撮った写真
京義線都羅南北出入事務所で列を作る観光客たち。2008年当時、バスで開城を訪れる日帰り観光は大変な人気だった

■若かりしユ・ジテのベスト作!『春の日は過ぎゆく』(ホ・ジノ監督/2001年)

 韓国映画の名作『八月のクリスマス』(1998年)に次いで、日本で高く評価されているのが同じホ・ジノ監督作品『春の日は過ぎゆく』だ。

 サウンド・エンジニアという見栄えのする仕事に就いているが、純朴な青年サンウ(ユ・ジテ)が年上のラジオPDウンス(イ・ヨンエ)と出会い、たちまち恋に落ちる。家庭環境が複雑で人の心の痛みがわかってしまう彼は、一度愛したら脇目もふらないタイプだ。

主人公サンウの家はソウル西部の水色駅付近だった。20年前は田舎町にしか見えなかったが、今はすっかり変わってしまった。写真は漢江側から見た水色駅付近。高層ビルやアパートが林立している
映画『春の日は過ぎゆく』のヒロイン(イ・ヨンエ)が住んだサンボンアパート。江原道東海市の墨湖にある。1階入り口の右手、3階の室外機があるところの窓からウンス(イ・ヨンエ)が顔を出す場面があった。あれから20年が過ぎ、周辺の風景は変わったが、マンション自体はほぼ当時のまま。ウンスの部屋として撮影された101棟の304号室はAirbnbで宿泊施設として提供されている
映画『春の日は過ぎゆく』の冒頭、ウンスのアパートで初めての夜を過ごしたサンウが、翌朝、幸せのあまり駆け出した通り

 しかし、離婚経験のあるウンスは恋愛に対してドライだった。幸せな時間を過ごしたのも束の間、サンウのまっすぐな思いがウンスには負担になっていく。

 筆者の周りではこの映画がユ・ジテのベストだと言う人も少なくない。とくに、ウンスから避けられ始めたサンウが半ばストーカーと化してからの迫真の演技には、同情、いや胸を痛めた人が多い。

 印象に残っているのは、二人が初めて江原道の田舎町に竹林や川の音を録音しにいったときの食事シーン。サンウが雑穀飯をすくったスプーンをそのまま海苔に押し付け、海苔ごとひと口に頬張る姿が、彼の無邪気さを象徴していた。とても可愛らしいので、ぜひ見直してほしい。