JEA(韓国と北朝鮮の共同経済区域)が実現した朝鮮半島で、南北のならず者9人が4兆ウォン強奪を企てるドラマ『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』は、南北の往来が可能になるとどうなるかが劇的に描かれていて大変刺激的だ。

 今回は、ソウルドリームを夢見る北朝鮮の人が韓国に来ると何が起きるのか考えてみよう。

平壌からソウルに来たトーキョー(チョン・ジョンソ)の高揚感を象徴する場所として使われたソウル路(右)と、そこから見える旧・ソウル駅舎(旧・京城駅舎)

BTSにも会えず……平壌娘を失望させたソウルドリームの現実

 BTSに夢中だった平壌娘トーキョー(チョン・ジョンソ)は、希望を胸にJEAバブルに湧くソウルにやってきたが、現実は甘くない。北朝鮮から韓国にやってくる人々の世話をするブローカーが彼女に約束した住居も職場も嘘っぱちだった。そう、詐欺に遭ったのだ。

歌と踊りが好きな平壌娘(チョン・ジョンソ)がもしソウルに来ていなかったら、この写真のような北朝鮮の芸術団(歌舞団)で働いていたかもしれない

 このあたりの描写は、過去の脱北者の事例を参考にしていると思われる。実際、脱北者が増えた2005年以降、資本主義社会にとまどう彼らを狙った悪徳ブローカーが暗躍した。脱北者には韓国政府から定着支援金や住宅支援金が支払われるため、それ目当ての詐欺が横行したのだ。

 そのあたりをリアルに描いていたのが2006年の映画『約束』(原題:国境の南側)だ。平壌から中国経由でソウルに来た主人公ソノ(チャ・スンウォン)は、平壌にいる婚約者ヨナ(チョ・イジン)を呼び寄せるため、消費者金融で借りた大金をブローカーに支払ったが、まんまとだまし取られてしまった。ソノは苦労の末、ブローカーを探し当てるが、返り討ちに遭ってしまう。

のちにトーキョーと呼ばれる平壌娘(チョン・ジョンソ)が借金返済のために働いていた中華料理店。ここはセットではなく全羅北道の群山(クンサン)に実在する「濵海園」

『約束』のソノ同様、『ペーパー・ハウス・コリア』でだまされて怒りに震えるトーキョーの視線の先にあったのは、「(北朝鮮からの)移住者優遇」と書かれた消費者金融のチラシだった。当面の生活費のために彼女もそこから金を借りたはずだ。その返済のために、はじめは中華料理店のウエートレスとして働き、やがて厚化粧して夜の世界に入って行く。そこは酔客に身体をさわられても文句は言えない場末のキャバクラだった。

 ボディコンシャスな服を着て韓国の懐メロを歌い踊るトーキョー。彼女が平壌の自室で練習した歌や踊りは、いつかBTSに会うためだったはずだが、当のBTSは故郷平壌でコンサートを行うという。

「いったいなんなの? この世の中……」

 弱者の生き血を吸うキャバクラのオーナーとトラブルになり、さらに窮地に陥るトーキョー。そんな彼女が教授(ユ・ジテ)から持ちかけられた現金強奪の話に乗るのも無理もないことなのだ。

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