現代のプレイボーイ(料理の腕は天下一品!)の魂が、朝鮮王朝時代の王妃の肉体の中にタイムスリップしたことから始まる宮中サバイバル時代劇『哲仁王后〈チョルインワンフ〉~俺がクイーン!?~』(2021年)。

 この作品は、本来口数の少なく、婦徳のある女性だったと伝わる王妃(シン・ヘソン)が現代男のスキルを目一杯使って、しきたりと王の外戚同士による権力闘争激しい宮中で、ハチャメチャな活躍する痛快ファンタジー作品なのだが、時代背景を巧みに利用した設定やセリフがとても気に入っている。

『哲仁王后』画像出典:tvN

■悲劇の人、朝鮮王朝第25代・哲宗が魅力的に描かれた『哲仁王后』

「哲宗(チョルジョン)!? 酒と女に溺れた最低の王じゃないか」

 劇中、王妃キム・ソヨン(といっても心は現代に生きる大統領の料理人ボンファン)が、時の王(つまり自分の夫)が誰かを知ったときに発した言葉だ。朝鮮王朝25代王・哲宗といえば「突然、農民から王になり、酒と色に溺れた人」、これが一般的な評価だろう。

『哲仁王后』画像出典:tvN

 哲宗の幼名はウォンボク。祖父はイ・サン(第21代王・正祖)の異母弟だが、天主教弾圧と権力闘争に巻き込まれて、江華島で自害している。漢城生まれのウォンボクも14歳のときに江華島に流刑され、没落王族として、農作業ときこりで生計を立てていた。それから5年、ある日、青天の霹靂のような知らせがやってくる。「あなたはこの国の新王です」と。

 この頃の王朝は、天下を牛耳る外戚(つまり王妃の実家)集団・安東(アントン)キム氏と、同じく外戚の豊壌(プンヤン)チョ氏による権力争いの真っ只中。世継ぎのいなかった憲宗(ホンジョン)の次の王を、自分たちが操りやすい人物にしたかったキム一族は、ウォンボクに目を付けた。