爆弾テロと元軍人の鬼気迫る戦いを描くサウンドパニックアクション映画『デシベル』。ドラマ『ファースト・レスポンダーズ 緊急出動チーム』で演じた破天荒な熱血刑事ぶりも記憶に新しいキム・レウォンが爆弾テロに立ち向かう元海軍副長に、少女マンガから抜け出したようなルックスを駆使したロマンチックな役柄で不動の人気を誇るイ・ジョンソクが謎の高IQテロリスト役に挑んだ。

 その圧倒的な緊張感、俳優たちがノースタントで挑んだアクションの数々、迫力の映像に存在感を発揮した「音」に関する設定、そして、明らかになる真実と悲劇――。 独特のスタイリッシュさとヒューマンをあわせもつ韓国映画『デシベル』を生み出したファン・イノ監督に話をうかがった。(記事全2回のうち後編)

■映画『デシベル』ファン・イノ監督インタビュー〈後編〉

キム・レウォン、イ・ジョンソク、チャウヌASTRO)ら、俳優の魅力が結実した作品

――実際に演じてもらうにあたって、とくに俳優たちと相談したことなどはありましたでしょうか。

「私は、キャスティングがすべてだと思っています。もちろん撮影前には、それぞれのキャラクターの分析をして、こんな感じで撮ろうといった話はします。ですが、表情や演技、セリフまわしをどうするか、どう演じるかというのは俳優さんの役割であり、私があれこれ注文するものではないと考えています。

 だからこそキャスティングがすべてで、それが失敗すると大変なことになるのですが、幸い、キャスティングがすべて成功しました。俳優たちは本当にいろんなことを準備してくれていましたし、こちらからあれこれいう必要などなかった現場でした。

 私は、台本通りのセリフを同じようになぞるよりも、そのセリフがもつメッセージを伝えてくれさえれば、俳優自身の口に馴染んだセリフでいってもらうほうが好きなんですね。

 キム・レウォンさんは最初から最後まですべてセリフを設計してくれていました。イ・ジョンソクさんは、現場で馴染むように変えていましたね。チャウヌ(ASTRO)さんは本人がぎこちないなと思っていることがあると、『監督、どうでしょうか』と聞いてきてくれたので、一緒に考えたりもしました。いずれにしても、自由がいちばんだと思いましたので、こちらからなにかを変えたりすることはなく、俳優さんのやりやすさを優先してもらっていました」

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――演じる醍醐味を感じる現場のようですね。実際に、撮影しながら印象的だったシーンなどはありましたでしょうか。

「そうですね。イ・ジョンソクさんとの最初の撮影が印象に残っています。そのとき、私は彼がどんなふうに演じる人なのか、詳しく知らないまま撮影に入りました。というのも、彼はリハーサルであまり見せない。どう演じるのかわからないんですよ(笑)。

 普通、俳優というものは、リハーサルで70〜80%ぐらいを見せて本番で100%出すというのが定石なんですが、イ・ジョンソクという人は、リハーサルで20~30%しか見せない。だから本番でどんな演技が飛び出してくるのか、こちらも緊張して期待をして、撮影にのぞむことになりました。

 最初の撮影は、長髪姿の彼をインタビューするシーンでした。台本では、最初から最後までシリアスなトーンでインタビューに答えるという演技の構成でしたが、彼は完全に別のものを作ってきたんです。突然ケタケタと笑いだしたかと思えば、泣いたり笑ったり、髪をこうやってかき上げたり……それをリハーサルでは見せずに本番でいきなりばっと見せるものですから、すごく新鮮でびっくりしました。

『これがイ・ジョンソクの演技スタイルなんだ』と理解できました。ですから、あの芝居を見て以降、緊張はもちろんしますが、楽しみながら彼の演技を見ることができました」