『涙の女王』が近年稀に見る大ヒット作になりそうだ。韓国の放送局tvNでは、回を重ねるごとに視聴率がアップし、20%越えに。韓国のTVコンテンツ話題性分析機関グッドデータコーポレーションが発表する「TV-OTT統合ドラマ話題性指数」でも、6週連続で1位を獲得した。(以下、一部ネタバレを含む)
■『涙の女王』大ヒット中!『愛の不時着』脚本家はホームドラマの名手
本作の脚本を手掛けたのは、『愛の不時着』『星から来たあなた』のパク・ジウン。この2作に比べると、異星人も異国の人も登場しないし、最初は少し地味な設定のような気もした。だが、結婚生活の危機を迎えた財閥家の夫婦の単なる再生物語と思いきや、登場人物がユニークでストーリーが抑揚に飛んでいて、気がつくと集中して観てしまっていた。
脚本家のパク・ジウンは、ラブロマンスだけでなくホームドラマでもヒット作が多い。実は韓国で最も評価が高いのは、痛快な嫁と嫁ぎ先の大家族のもろもろを描いた『棚ぼたのあなた』。『涙の女王』でも、夫婦、親子、大家族、嫁姑の物語がとても面白く練られている。
主演のキム・スヒョンとキム・ジウォンが好演しているのは誰もが認めるところだが、そうしたホームドラマ的な面白さを盛り上げているのは、脇役俳優だ。
特に、今回は女優陣の活躍が目立つ。個人的に注目しているのは、ホームドラマというよりも愛憎復讐劇の登場人物のようなモ・スリを演じるイ・ミスク。60代になった今も色香があるが、実はモ・スリの愛人である80歳のホン・マンデ会長役を演じたキム・ガプスとは、実年齢で3つしか変わらない。
劇中のモ・スリは、ミステリアスな女性だ。美しく気品があり隙がない。一代で財を成したホン・マンデ会長のそばを何十年も離れず、絶大な信頼を得ている。だが、物語が進むにつれ彼女の化けの皮がはがれ、ドラマを反転させる役割を担うこととなる。
イ・ミスクは、『ラブレイン』『油っこいロマンス』といった数々のドラマで印象深い演技を披露してきたが、前作『完璧な結婚のお手本』では、財閥家の人間でありながら気風のいい女性をスカッと演じていた。『涙の女王』とちょうど同時期に観ていたこともあり、あまりに表情と雰囲気が違うことに驚いた。
80年代には映画・ドラマでトップ女優として活躍したというイ・ミスクを、最初に映像で見たのは人妻と年下青年の情熱的な愛を描いた映画『情事 an affair』だ。劇中では平凡な主婦役だった。当時イ・ミスクは、30代後半。そのシンプルな美しさに見とれた。今年下半期に配信予定の『イカゲーム2』が話題のイ・ジョンジェと共演しているが、2人のシーンが切なく艶やかだ。
『涙の女王』でも、もちろんその美しさは衰え知らずだが、迫力が違う。まるで女帝のようだ。場面がピリッと引き締まる。化けの皮がはがれたあとの豹変ぶりも必見である。