地球に登場した史上最大の生物とされるシロナガスクジラ。最大の記録は体長29.9メートル、体重199トンとされる

 地球上に存在した最大の生物といえば、全長約30メートル、体重約200トンのシロナガスクジラ(注1)。しかし、先ごろ古脊椎動物学の学術誌「Journal of Vertebrate Paleontology」に掲載された論文で、それを遥かに超える生物の存在を示す証拠が見つかったと発表された。

注1:史上最大の恐竜として、「アンフィコエリアス・フラギリムス」の名前が挙がることはあるが、証拠の化石は紛失。現在では樹木の化石の誤認では? と存在が疑われている。

 

■縦にしたら渋谷109と同じ高さ…絶句する巨大生物が!?

 

 論文によれば、発見された化石の主は全長50メートル超と推定され、縦にすればちょうど渋谷109ビルと同じ高さになるという。その正体は三畳紀からジュラ紀にかけて海の生物の頂点に君臨した魚竜・イクチオサウルス(注2)の一種。イルカに似た尖ったクチバシと鋭い歯で他の生物を捕食するプレデターだった。平均的な体長は2~4メートルほどとされるが、過去にもカナダやイギリスで体長18~20メートル、体重80トンほどの大型種の化石が発見されている。

注2:海棲の爬虫類で「〇〇サウルス(〇〇竜)」と付くが厳密には恐竜とは遥か昔に分岐した別の種。ちなみに映画『ジュラシック・ワールド』に登場した恐竜をひと呑みしたモンスターは、ジュラ紀以降に海の支配者になったモササウルス。

 

ロンドン自然史博物館に展示されているイクチオサウルスの全身標本。手前の見学者と比べてかなりの大きさだが、これでも小型種となる。

 今回発表された超大型種の化石、実は1976~1990年に行われた地質調査の際に発見されたものだが、今回、詳細な分析の結果、驚くべき事実が明らかになったのだ。

 

 以下、詳細なインタビューが掲載されたサイエンスニュースサイトPhys.orgの記事を元にまとめると、論文の筆頭執筆者であるドイツ・ボン大学のマルティン・ザンダー教授(古生物学)はこの化石について、「魚竜の歯根の化石で直径60ミリ。これまで見つかった歯根の化石は直径20ミリが最大で、これは体長18メートルの魚竜のもの」としている。つまり、直径が3倍なので単純計算すればこの化石は体長54メートル、体重240トンほどの化け物級のイクチオサウルスのものというわけだ。

 

 ザンダー教授自身「非常にエキサイティングな発見だ」と発言しており、さらに調査が進めば、「地球史上最大の生物」の座は、この巨大イクチオサウルスのものになる可能性は強い。ただ、その一方で教授は「巨大な歯をもったイクチオサウルスの可能性も……」と慎重な意見も述べている。まあこの辺は、慎重にエビデンスを積み重ねる研究者として真っ当な態度。とはいえ、最大級の種のさらに3倍の大きさの歯をもったイクチオサウルスとしたら、それはそれで化け物じみている気はするが……。