■押収された手製の拳銃と爆弾の山が意味するものとは?
安倍晋三元首相への銃撃テロという衝撃的な事件当日。山上徹也容疑者の自宅に家宅捜索が入り、証言どおり複数の手製拳銃や爆発物が押収された。まず第一に、こうした銃器や爆弾を元海上自衛隊員とはいえ、一般人が造ることが可能なのだろうか?
北芝「事件の映像から分析すると、一発目で轟音が鳴ってもうもうと煙が立ち込めているので黒色火薬が使われたことは間違いないでしょう。黒色火薬自体は入手に規制がかかっていますが、材料を入手し自製することは十分に可能です。銃器自体も映像を見る限り一般人でも製作は可能でしょう」
ただ、翌日9日の報道で「数カ月かけて準備した」という山上容疑者の証言が報じられたが、逆に見ればわずか数カ月で山上容疑者一人でこれだけの武器弾薬、爆弾を製造できるものなのだろうか?
北芝「そこですよ。材料の入手やその資金を考えると、あくまで山上容疑者は実行犯に過ぎず、必ず仲間というか周囲の支援者、協力者がいたはずです」
JFK暗殺を巡る陰謀論のオズワルドみたいな話になってきたが、確かに、SNSやネットでは実しやかに「事件の背後には〇〇がいた」「〇〇が指示して山上容疑者に銃撃させた」あるいは「〇〇主導の自作自演」などと”黒幕X”にまつわる陰謀論や「隠蔽された真実」が飛び交っている。
果たして、陰謀を巡らせ安倍元首相を暗殺した”黒幕”はいるのだろうか?
北芝「どうでしょう(苦笑)。先ほど話したように(前編参照)、官邸サイドが危機意識の欠如か、あるいは意識的にか警備を緩めた可能性はなくはないですが、ある特定の国や団体が意図的に山上容疑者をけしかけたというのは、現時点の情報では可能性は低いと思いますね。ただし……」
■一発目と二発目、1秒ほどの間が示す山上容疑者の背景
北芝「映像を見ると、一発目と二発目の間に1秒ほどの間がありましたよね。現場にいた方の『最初は水平に撃っていたのが、二発目は銃口を少し上に向けていた』という証言が確かなら、着弾修正していたということになります。つまり、かなり冷静に銃撃したということです」
事件前日に岡山の遊説会場でも犯行に及ぼうとしていたなど、襲撃への計画性の高さがうかがわれるが、射撃の正確性についてもかなりの練度が感じられるという。こうした点からも、計画を支えた「協力者」の存在が臭うというわけだ。
その一方で山上容疑者は「某宗教団体の幹部を狙っていた」などと証言し、現時点でメディアの多くは個人的な怨恨を拗らせた挙句の単独犯行と報道しているが……。
北芝「まず『ある特定の宗教団体』というのが私の耳に入っている教団だとすれば、関係がある政治家は山ほどいますからね……。その中で安倍元首相だけを狙ったというのは、その宗教団体と元首相を結び付けるネットの書き込みに刺激され、短絡的に犯行に及んだというほうが筋が通りますね。
ただ、こうした事件の場合、取り調べを想定して『想定問答』を用意している例もありますから、いま報道されている山上容疑者の証言を鵜呑みにはできません。むしろ、どこで射撃技術を練習したかなど、やはり協力者の存在が気になりますね」
報道では「元海上自衛隊員」という点が強調されているが、いわゆる任期制自衛官で、しかも除隊してから15年以上経っている。銃器や弾薬、爆弾の材料の入手ルートや資金源もさることながら、あのような手製拳銃で正確に着弾させる射撃技術をどこで磨いたのか、山上容疑者の背後にはまだまだ闇が広がっている。
北芝「私が推測する『協力者』ですが、一つにはネットで情報交換する程度の関り合いの人間もいたでしょう。ただ、彼らのような者も物理的に支援していた者も既に関わっていた痕跡は消しているはずです。しかし、すでに公安警察が動いているという話もあり、協力者の名もいずれ浮かび上がってくるでしょう」
いずれにしても、取り調べも捜査もまだ始まったばかり。真相解明に向けて新たな情報が明かされることを期待したいところだ。