■ジェームス・ディーンでソフトに洗脳?
ドラマや映画、アニメの中で使われているグッズが実際に欲しくなったことはないだろうか? ロケに使われた場所をファンが訪れる「聖地巡礼」は、いまは当たり前の言葉として定着した。
主人公が身につけているファッション、時計、飲み物、携帯電話、車、パソコン、店舗……実は映像作品に登場するありとあらゆるものに、広告費がついている場合があるのだ。
大きなきっかけのひとつは、1955年公開のハリウッド映画『理由なき反抗』だった。主人公のジェームス・ディーンがポケットの中から櫛を取り出し、リーゼントを整えるシーンが何度も出てくるが、これを見たアメリカの若者たちから「同じ櫛はどこで買えるのか?」と、問い合わせが殺到したのだ。
それ以前にも同様の手法が取られた例はあったが、これが新しい広告ビジネスになると感じた映画会社は、「劇中広告での商品タイアップ」を始めた。この手法は「プロダクトプレイスメント」と呼ばれ、一般化。現在アメリカでは、プロダクトプレイスメント専門の広告代理店が数十社存在する。
■007がハイネケンに魂を売ったと大騒動に
たとえば有名なところでは俳優のシルベスター・スタローンの例がある。1983年、彼は5本の長編映画でラッキー・ストライクなどの銘柄で知られる「Brown & Willson」のタバコを使用することで、50万ドル(約6600万円)を受け取る契約を交わした(注1)。
これ以外にもタバコ会社のプロダクト・プレイスメントの例は数多い。70年代以降、タバコの広告に規制が強まる中で、自然にさりげなく喫煙シーンを盛り込むことで活路を見い出すタバコ会社が多かったようだ。
注1/この50万ドルが「5本まとめて」なのか「1本あたり」なのかは詳細不明。写真のカリフォルニア大学が公開したB&W社の内部文書によると50万ドルとしか書いていない。
最近の例でいえば、世界で最も有名なスパイが魂を売ったと大騒動になったことがある。
007シリーズの主人公、ジェームズ・ボンドといえば「シェイクしたウォッカ・マティーニ」がアイコンとなっているが、2012年公開の『007スカイフォール』では、オランダのビール会社ハイネケンと約36億円という巨額プロモーション契約を結ぶことで、この伝統が変えられてしまったと大騒ぎになったのだ。
2代目ジェームズ・ボンド役のジョージ・レーゼンビ―は「ウォッカ・マティーニを呑まない007など許さん!」と激怒。ファンからも大ブーイングが起き、慌てて監督や製作サイドが「ちゃんとマティーニも呑みます!(ただ、ちょっとだけハイネケンも呑ませて)」と火消しに走ることになった。
ちなみに、1967年公開の映画『007は二度死ぬ』では、トヨタ自動車の2000GTが、劇中に登場した日本人女優、浜美枝の愛車として登場した。これは有名な話だが、実はこの映画では、劇中に登場する車両すべてにトヨタ車が使用されているのだ。この時、どれぐらいの金額が動いたのか否かは不明だが、すでに007は「プロダクト・プレイスメントに愛されたスパイ」だったのだ。