■世界中に存在する「小さき人々」にまつわる伝説

西洋では「長いひげの老人」で「鉱山や鍛冶の知識豊富」といったイメージの「ドワーフ」がよく知られている。

 日本には一寸法師、コロポックルなど、われわれとは極端に異なる小さな体をもち、不思議な能力をもつ、いわゆる「小人(こびと)」に関する伝説が存在する。また世界に目を広げればドワーフ、ホビットなど、様々な「小人伝説」が存在する。以前、世界に点在する巨人伝説とその実在の可能性について紹介したが、今度は逆方向の伝説について検証してみよう。そう、はたして、いわゆる「小人族」は実在したのだろうかーー?

 まず「小人伝説」に関する歴史を振り返ってみよう。

 単なる伝承ではなく、文字として文献に残されたものでも古代に遡ることができる。例えば紀元前2300~2200年頃の古代エジプト王ぺピ2世に宛てられた手紙の中で「ヌビア(現在のスーダン)から‟神の踊り子の小人”を連れてきた」と書かれており、さらに、その100年ほど前のイセシ王(第5王朝のジェドカラー王)の時代にもプント(現在のソマリアなど)から「小人」が連れてこられたと碑文などに記されているという(注1)

注1/出典:Pepi II and the Dwarf (discoveringegypt.com)

■鶴が天敵だった「小人族・ピュグマイオイ」

天敵の鶴と戦うピュグマイオイが描かれた紀元前5世紀ころの壺

/スペイン国立博物館所蔵・Wikimedia Commonsより

 さらに、紀元前8世紀、古代ギリシアの詩人ホメーロスは叙事詩『イーリアス』のなかで「ピュグマイオイ」という小人族について記している(注1)。のちに古代ローマの博物学者プリニウスは、このピュグマイオイについて「はるか遠くインドの山岳地方を超えた温暖な土地に暮らす身長30センチにも満たない種族」として、なぜか鶴が天敵としている。また、古代ギリシア~ローマの地理学者たちは、エチオピアあるいはインドなど遠く離れた土地にピュグマイオイの国があると考えていたようだ。

注1/語源としては、身長が「(ギリシア人の)肘から拳までの長さほどしかない連中」という、やや見下したような意味合い。

 不思議なことに、この「鶴を天敵とする小人族」という伝承は、古代地中海世界から遠く離れた中国でも伝えられている。古代中国の博物書『山海経(せんがいきょう)』には「遠い東の果ての海の島に暮らす小人(しょうじん)」が登場する。そして、彼らの天敵もまた「鶴」なのだ。

 この「遠い地や海の果ての島に暮らし、自分の身の丈を超す鶴(鳥)を天敵とする小人族」のイメージはどこから誕生したのか? あとで、重要になるので頭の隅に入れておいてほしい。