■「伝説の小人族」とされた実在の人々

※YouTubeチャンネル「Drew Binsky」より

「ピュグマイオイ」という言葉の響きでピンときた勘のいい読者の方もいるだろう。

 アフリカ大陸中央部、赤道付近の熱帯雨林には「ピグミー」と総称される狩猟採集民が存在する。身長が低いことで知られ、平均身長は成人でも1.5メートル未満という。そして、この「ピグミー」という言葉の語源が、ピュグマイオイだと言われているのだ。

 ひとつ断っておきたいが、「ピグミー」とは、コンゴやルワンダ、カメルーンなどに点在するトゥワ族、ムブティ族、アカ族など様々な民族グループを十把一絡げで「体の小さい人々」と称したもので民族名ではない。また、その語源と同様、侮蔑的なニュアンスを含んでいるので、近年は彼ら民族グループに対して、この名で呼ぶことは避けるべきとされているのを覚えておいていただきたい。

 さらに「伝説の小人族ピュグマイオイは現在もアフリカに暮らすピグミーがモデルだ」とする誤解もあるが、そもそも古代ギリシアと中央アフリカの人々に直接的な交流があったかどうかは怪しいところ。ただ、「遠いヌビアやプント(現在のアフリカ)の先に、われわれギリシア人と異なる、小さき人々が存在する」という噂話が伝説のもとになったのでは? と指摘する専門家もいる。

■「幻の山」の麓に暮らしていた伝説の小人族?

 ところで、プリニウスや古代ギリシア、ローマの地理学者が「インドの山岳地帯の先にピュグマイオイの国がある」としていたが、まさに、インドの山岳地帯の先に「世界で最も小さい民族」と言われた人々が実在する。

 ミャンマー北部カチン州と中国の国境にそびえる「カカボラジ山」。ヒマラヤ山脈の最東端にあたる標高5881メートルの高峰で、1996年、日本人登山家が初登頂を達成するまで、多くの登山家を退けてきた「幻の山」だ。そして、この幻の山の麓に暮らしていた「幻の小人族」とされるのがタロン族だ。

 ミャンマーの険しい山岳地帯で主に狩猟採集で生活していたタロン族は成人しても身長が1.1〜1.3メートルほどと言われている。なお「カカボラジ」という山の名も、彼らタロン族の言葉に由来するという。また、現地に詳しいタイ在住の映像コーディネーターによれば、タロン族はその姿から「森の妖精」として崇められていたものの、いつからか(カチン州にキリスト教が流入して以降?/編集部注)「悪霊」として迫害されるようになったという(注2)。さらに厳しい生活環境や自然災害の影響もあり、純粋なタロン族は現在、4人しか残っていない。

注2/出典:ミャンマの山岳民族、思いつくままその1 | タイで30年 テレビ・CM製作のコーディネーター タイミカサ (fc2.com)