■キャストと客の「嘘と駆け引き」を楽しむはずが……
キャバクラというものは基本、偽りだらけの世界である。キャストは源氏名を使い「彼氏? いませんよ~」と客には言い、疑似恋愛を行なうものである。もちろん、客もキャバ嬢の言うことをすべて信じているわけではなく、その場の雰囲気とお酒を楽しんでいる。
だが、キャバクラでは嘘を嘘と見抜けない客も多い。また、時として客自身も嘘をつくこともある。今回はキャバ嬢の嘘を信じ、また、自身も虚飾に満ちた客の話をしよう。
■店のナンバー1嬢・ミサトに群がった男たち
その昔、都内のキャバクラで働いていたとき、ミサトというキャストがいた。ミサトは店のナンバー1でほぼ毎日、指名客をオープンラストで呼んでいた。そのキャバクラは大衆店だったため、指名をしても1時間1万円程度。
だが、オープンラストでいると5時間にもなるため、単純計算で客は5万円を支払わなければいけない。ミサトには週3~週5で通う指名客が複数名いたので、月計算すると客は50万円~100万円ほどミサトのために金を落としていたということになる。すべての客に色恋営業を行なっていたので、のめり込んでしまう客ばかりだったのだ。
キャバクラで月50万円以上も使う客は何の仕事をやっているのか? ミサトの場合は、一人は地主で、もう一人はIT関連の会社に勤めていた。IT関連勤務の客は『Mくん』といい、年齢は37歳。メガネをかけていて髪はボサボサ、冴えないオタク風の風貌だ。
私も何度かヘルプに付いたことがあったが、ボソボソとした喋り方であまり得意な客ではなかった。とてもキャバクラで月50万円以上も使えるほど稼いでいるようには見えなかったのだが……。
■突如、消えた常連の太客・Mの裏の顔とは?
だが、Mくんはある日を境に急に店に来なくなった。Mくんがいつから通っていたか詳しい事情は分からないが、私が入店する1年前から通っていたことは確かだ。私はミサトと仲が良かったので、それとなく聞いてみることにした。
すると、ミサトは「誰にも言わないでほしいんだけれど……」と前置きした上で、信じられないことを明かした。
「実はMくん……、ITて言っていたの嘘だったんです」
ミサトの話によるとこうだ。Mくんはいつも支払いのときにニコニコ現金払いだった。キャストへの日払いも行なうキャバクラにとって、現金払いの客はありがたい。Mくんもそれを知ってか「現金のほうがいいでしょう?」と言っていたため、ミサトもさほど気にしていなかったという。
「……でも最近、Mくんの様子が明らかにおかしかったんです。1ヶ月ほど前、いつものように現金で払っていたんですが、その1万円札がしわくちゃだったんです。しかも、何重にも折りたたまれていたかのような跡もついていました。不思議に思って、何気なくMくんの財布に目をやると、『インターネットカフェ』と書かれた名刺がチラッと見えたんですよね」
■正体に気づかれ店に現れなくなったM
Mくんの仕事はIT系なんかではなく、ネットカフェの店員だったのだ。いつも現金払いだったのは、正社員じゃないのでクレジットカードを作れなかったのかも……とミサトは憶測する。そこで、急に今まで高額を使わせてきたのが怖くなったという。そして、その直後からMくんは店に来なくなった。もしかすると生活費を削ってまでミサトに会いに来ていたのかもしれない。
「できれば、もう来てほしくないですね……」
いくらキャバ嬢とはいえ、そこまで稼いでいるとは思えない客から金を引っ張り続けていたことに罪悪感を覚えていたのかもしれない。
だが、そんなミサトの願いはすぐに打ち砕かれることとなる。彼女の身辺に不可解なことが起こり始め、遂に彼女は次第に壊れていくのであった……。
(続きは後編で)