■アフリカ大陸から6万年前に到達した「センチネル族」?
まず大前提として、「センチネル族(英語ではSentinelese)」と呼ばれる北センチネル島の先住民は、これまで数少ない研究調査の記録を除き、外部の人間との接触を拒み続けているため、人口規模や生活実態はもちろん、DNAや言語すらすべて謎だということ。
ただ、60年代~90年代のインド政府の調査や沿岸からの観察により、「石器時代同様の生活を送っていること」「農耕は行なっておらず狩猟採集生活を送っていること」「人口は50~400人で小グループに分かれて生活していること」「平均身長が低いネグリト系であること」などが推測されている。
また、同じアンダマン諸島の先住民、オンゲ族(小アンダマン島)、ジャラワ族(南アンダマン島南部)などと同系統だと推測され、6万年ほど前にアフリカ大陸からユーラシア大陸南部沿岸地帯を経て、アンダマン諸島に到達したグループの末裔だとされている(ただ、オンゲ族やジャラワ族とも言葉は通じないそうだ)。
■センチネル族と日本人は「Dの遺伝子」でつながっていた?
そして、ここからが本題。実は、このセンチネル族とわれわれ日本人は世界でも稀な「ある遺伝的特徴」を共有している可能性が高いという。その「ある遺伝的特徴」こそが、インターネットとくにオカルト、ミステリー分野ではよく知られた「YAP(ヤップ)遺伝子」(注5)、あるいは大人気マンガ『ワンピース』のエピソードにちなみ「Dの遺伝子」と呼ばれるものだ。
注5/正確には性染色体の一つで、雄の個体にしかないY染色体における変異「Y染色体Alu反復多型」を略してYAPと呼ぶ。
で、なぜ「Dの遺伝子」と呼ばれるかというと、この染色体の変異を持つグループ(専門的にはハプログループと呼ぶ)のうち「D1a2a」という型が日本人の約30~40%を占め、日本周辺の中国大陸や朝鮮どころか世界中でもかなりレアな特徴を示しているという(注6)。つまり、「日本人特有の遺伝子」というニュアンスで頭の文字を取って「Dの遺伝子」と呼ばれることが多いのだ。
注6/沖縄諸島では50%前後、アイヌ民族では90%近い高頻度でこの型が見られるとのこと。それに対し、韓国(朝鮮民族)では4%。中国本土の漢民族では2%未満とされる。逆に高頻度でD系統の特徴が見られるのはチベット族(D1a1が約60%)。
そして、この「ハプログループD1a2a」と非常に近い「D1a2b」という型が見られるのが、実はアンダマン諸島なのだ。正確には前出のオンゲ族とジャラワ族で、なんと「D1a2b」の型が100%!(注7) ある意味、純粋な「Dの遺伝子」を受け継いでいるのが彼ら。つまり同系統とされるセンチネル族もまた、われわれ日本人と同じ「Dの遺伝子」を持っている可能性が高い、言ってしまえば「世界で最も危険な部族」とわたしたちは”親戚関係”かもしれないというわけだ。
注7/しかも、オンゲ族とジャラワ族を含む「オンガン語族」は日本人と同じ膠着語系の言語を持っている。その一方、同じアンダマン諸島の大アンダマン人は0%と、まったくこの遺伝子を受け継いでいないという。
■ただし……意外に「すっごく遠い」親戚の可能性も
で、ここからは都市伝説的というか、注意が必要な話だが、ネットで「YAP遺伝子」「Dの遺伝子」などと検索すると、型にはまったように、
「日本人が○○人と違って優秀なのは、縄文由来のDの遺伝子があるからだ」
「日本人特有の”神の遺伝子”、日本人が龍神族の末裔の証拠だ!」
「遠くアンダマン諸島に見られるのは、縄文人が世界に広まっていた証拠だ」
などと、トンデモ説が飛び出してくる。縄文人由来なのは研究結果からも間違いではなさそうだが、安直に「日本人は最高!」と手放しの礼賛につなげたり、「D」だから「Dragon(ドラゴン)」の末裔とか、世界に雄飛する縄文人だとかまでいくと、さすがに「おお……」という感想しかない。ましてや、他の民族を見下すなどもってのほかだ(そもそも10人に3~4人なのだから、トンデモ説を唱える人が「Dの遺伝子」の持ち主かどうかも怪しいところw)。
さらに、ここまでの話をちゃぶ台返しするようで申し訳ないが、日本人の「D1a2a」とオンゲ族とジャラワ族(そしてセンチネル族も?)の「D1a2b」の”親戚関係”について、
「末尾が「a」と「b」という違いしかないからメチャクチャ近い存在、宝くじなら前後賞もんじゃん!」
とお考えの方もいるかもしれない(わたしも最初、誤解して盛り上がりましたw)。
ただ、残念ながら最新の研究によれば、このaとbが分かれたのは(正確には、親系統の「D1a2」から「b」が分岐したのは)、5万3000年以上前とのこと。さらに、1万年以上下った3万8000年~3万7000年前に日本列島で誕生したのが「a」なのだそうだ。言ってしまえば「苗字はほぼ同じだけど、けっこう遠い親戚」というところ。
とはいえ、遠く5000キロ以上離れた孤島に暮らす「世界で最も危険な部族」とわたしたちが、すっごく遠いながらも、世界でも珍しい繋がりをもっているかもしれないと思うとワクワクしないだろうか?
『オフ・ザ・マップ 世界から隔絶された場所』アラステア・ボネット著、夏目大訳/イースト・プレス
The Sentinelese of North Sentinel Island: A Reappraisal of Tribal Scenario in an Andaman Island in the Context of Killing of an American Preacher/M.Sasikumar/Journal of the Anthropological Survey of India
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2277436X19844882#body-ref-bibr10-2277436X19844882
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