■怪異が囁かれる街で起こった不可解な火災
6月2日、大阪・梅田の繁華街にあるビルの2階で火事があり、男女16人がけがをするニュースが報じられた。しかも、火災当時、出火元の飲食店は休業中で無人。警察・消防では放火の線も疑っているというが、そもそもフロア自体が施錠されていて誰も立ち入れないはずだったという……。
この不可解な火事のニュースを聞いた時、わたしは思わず「またか……」と呟いてしまった。東京から関西に移り住み、早7年。梅田の夜の街を取材し続けているのだが、火事が起きた付近では不可解な事件が多いような気がするのだ。
火災が発生したビルは阪急梅田駅から徒歩5分ほど、新御堂筋と扇町通りがちょうど交差する辺りにある。昼も夜も人通りの絶えない繁華街であり、夜の街でもある。そして実は、当連載の第1回で書いた「次々と不幸が起こるキャバクラ」から火災現場は目と鼻の先なのだ。
■怪異を祓った祈祷師が語った「霊道」の話
第1回を未読の方のために掻い摘んで説明すると、花形キャストが体調不良を理由に次々と退店し、さらには真面目だったキャストが人が変わったように生活や金遣いが荒み始め、結局、ある日突然姿を消した舞台だ。そして、後にリニューアルした際に、異変が続くので祈祷師にお祓いをしてもらったところ、
「大規模な事故や災害が起こるたびに遺体安置所とされたお寺が店の近くにあるのだが、そのお寺と店が入居するビルをつなぐ道路が霊道になっており、霊道の終点に当たるこの店に良くない気が集まっている。一応、お祓いはしたが……」
と、その祈祷師から言われ、一旦は平穏を取り戻したものの、実はその後も不可解な出来事が続いている……という話だ。そんな怪談めいた一件があった店の近くで不可解な火事が起こったせいで、わたしは「またか……」と思ったというわけだ。
■そもそもの話、「霊道」って何?
この話を教えてくれたキャバ嬢のA子から聞いたとき、私は正直、「霊道だなんて、拝み屋の“ふかし”じゃないの?」と思っていた。そもそも「霊道ってなに?」と私も気になって調べてみたが、おおよそこんな説明が多かった。
・霊道つまり霊の通り道だが、霊だけでなく鬼や妖怪と呼ばれる「人ならざるモノ」も行き交う
・そのライン上では霊が行き交い、または滞留する場所が点在する
・亡くなった場所からお寺や神社など浄域へと向かい成仏するためのルートとする霊能者もいる
・その土地を流れる「気」「龍脈」といったものに関連している。つまり、気や龍脈に影響を受けた霊達がその道を好んで通るルートが「霊道」と呼ばれる。
・霊道上では、霊現象以外にも「植物が枯れる」「動物が寄り付かない/非常に警戒する」「体調不良になりやすい」「耳鳴りがする」などなど、さまざまな異変が起こる。
わかったようなわからないような話だが、成仏のための道であれ、気の流れるという「龍脈」であれ、多くの人が悲惨な死を迎えた場所や、寺や神社などの聖域や墓地などが、起点や終点になっていることは何となく理解できた。
■「霊道」の噂の元は史上最悪のデパート火災?
そして、祈祷師の言うとおり、確かに「霊道キャバクラ」や今回の火災現場があるエリアのすぐ近くに「B」という古いお寺があり、1972年に発生した「千日デパート火災」の時に遺体安置所とされたことは事実だった。
ご存じの方もいるとは思うが、死者118人・負傷者81人にのぼる人的被害を出し、戦後日本のビル火災として最大の惨事として知られるのが「千日デパート火災」だ。その被害者のほとんどは火災発生当時に7階で営業していたアルバイトサロンの客やホステス、従業員、つまり夜の街の住人だったという。そして、千日デパート跡地は現在、某家電量販店となっているが、50年以上経った今でも、
「〇階のトイレで女性がすすり泣くを聞いた」
「1階のタクシー乗り場で乗せた客が消えた」
「急に店内で焦げ臭いにおいが立ち込め気分が悪くなった」
などなど、怪現象を報告する人が少なくなく、心霊スポットとしても知られている。
実は私も一度、このビルの7階トイレに入ったことがある。重苦しい空気を感じて、暑くもないのに汗が吹き出し、動悸が止まらなくなったためすぐに出たが、二度と入りたくない……と正直、思ってしまった。
それはさておき、これだけ悲惨でしかもいまだに怪異が囁かれている事故にまつわるお寺が近くにあれば、「霊道」なんて噂が生まれるのも無理はないのかもしれない。