ジェフリー・エプスタイン

2019年7月、収監中の独房で不可解な「自死」を遂げたとされるジェフリー・エプスタイン。彼の死ですべては闇に葬られるのか?

(写真は2013年に逮捕された時のマグショット)

画像:State of Florida, PD, via Wikimedia Commons

 10代前半の未成年者を含む数多くの女性を性的虐待、さらには人身売買までしていたとされるジェフリー・エプスタイン。事件の舞台となった「エプスタイン島」ことリトル・セント・ジェームズ島やマンハッタンの大豪邸を訪れた「闇の顧客リスト」が24年1月早々に公開され、世界中に衝撃が走った。

 

 前編の記事ではジェフリー・エプスタインという怪物を生み出した3人の男についてみてきたが、後編では残るもうひとりの男と女についてみていこう。そして、その背後にはアメリカ、ヨーロッパ、そしてイスラエルまでつながる不気味な闇人脈が浮かび上がってくるのだ──。

 

■巨万の富と華麗な人脈のカギを握る男とは?

スティーブン・ホッフェンバーグ

エプスタインの「錬金術の師」スティーブン・ホッフェンバーグ。ニューヨーク・ポストを買収して有頂天。

画像:The New York Times 2022年8月26日記事より

 前編で紹介したように、ヴィクトリアズ・シークレットなどのブランドを擁するアパレル帝国のボスで、世界有数の億万長者、レス・ウェクスナーをパトロンとしていたジェフリー・エプスタイン。しかし、2019年に謎の死を遂げた時点で、彼の総資産は約6億3600万ドル(日本円で約950億円ほど!)に達していたとされ、それだけ巨万の富をどこで生み出していたのかは謎とされる。

 

 また、今年2024年1月に公開された”顧客リスト”には、ビル・クリントン元大統領、英王室のアンドルー王子、ビル・ゲイツなど政財界の要人から故マイケル・ジャクソンケビン・スペイシーなどのスター、さらには故スティーブン・ホーキングリサ・ランドールといった世界有数の科学者まで名前が載っていた。もはや”手当たり次第に呼んでみた”というほど著名人を集めた理由も、やはり謎のままだ。

 

ビル・ゲイツ
エプスタインとの「不適切な交流」が原因で離婚されたとも囁かれるビル・ゲイツ。 画像:Shutterstock

 

 しかし、この2つの謎を解き明かすカギを握る人物がいる。それがエプスタインという怪物を生み出したもう一人の男、スティーブン・ホッフェンバーグだ。

 

 

■エプスタインの師匠は米史上最大の投資詐欺師!?

 

 ホッフェンバーグの不審死を伝えるFOX61の動画「Jeffrey Epstein's mentor Steven Hoffenberg found dead in Derby(エプスタインの導師、ダービーにて遺体で見つかる)」 

 

 日本の読者にはあまりなじみのない名前だが、2022年に自宅で腐敗した状態で発見と、やはり不審な死を遂げたこの男、アメリカでは「史上最大のポンジ・スキーム(注1)を企てた男として有名だ。そして、このホッフェンバーグが実は、エプスタインの”錬金術”の師匠とされるのだ。

 

 1980年代後半から90年代初頭にかけて派手な投資や買収を繰り返し、一時は老舗紙ニューヨーク・ポストパンアメリカン(パンナム)航空の買収に乗り出し注目を集め(ただし後者は失敗)、「カネで買えるものは、すべてホッフェンバーグのもの」と豪語していた。

 

 プライベートジェットにマンハッタンの大豪邸、セレブとの派手な交流で億万長者ぶりをアピールしていたホッフェンバーグだが、そのカネは、ありえないほど高額の配当を約束した手形や債券で騙し取ったものだった。93年に詐欺が露見した時、被害者は20万人を超え、被害総額は約4億7500万ドル(約700億円)に上ったという。

 

■1987年、悪の天才同士の運命の出会い

 

エプスタイン

“師匠”ホッフェンバーグと出会った頃の若きエプスタイン。

画像:

 そして、彼が絶頂期を迎えていた1987年、前編で登場した謎の武器商人ダグラス・リース卿から「ビジネスの天才で、証券を売る才能があり、なにより道徳心がない男」として紹介されたのが若きエプスタインだった。そして、即座に意気投合した二人は出資金詐欺の”師弟コンビ”として事業を拡大していく。

 

 なお、ホッフェンバーグは新たに出会った”弟子”に、毎月2万5000ドルの給与や、無利子無利息で200万ドルの融資などを与えていた。この辺に、レス・ウェクスナーの時と同様、エプスタインの「ジジイ殺し」の異能が見て取れる。

 

 そして、事の善悪はさておき、出資金詐欺のコツはいかに騙す相手を信用させるか。ホッフェンバーグの派手な生活や、それ以上に派手な(無茶な)投資や買収劇も、いかに自分が常識外れの億万長者かを顧客(というかカモ)に印象付けるためのテクニックだ。

 

■師の教えを忠実に守ったエプスタイン!?

 

 日本でも投資詐欺やネズミ講の元締めが、豪邸や豪奢な生活、芸能人やセレブたちとの交友をアピールするのは読者の皆さんも思い浮かぶだろう。そしてこの点で、まさにエプスタインは”錬金術の師”であるホッフェンバーグの教えを忠実に守っていたことがおわかりいただけるだろう。

 

 だが、前編からここまで紹介してきた4人の男との闇の繋がりだけでは、エプスタイン島事件の謎は解けない。巨万の富と変態性欲のセレブたちとの人脈など、ジェフリー・エプスタインという「怪物」を生み出した最後のカギは、ある一人の女性が握っている。FBI(米・連邦捜査局)が「本当の黒幕」と名指しした、その人物とは……。