■沖縄の座敷わらし? キジムナーとは

妖怪とも精霊ともされ、親しまれつつも恐れられる存在、キジムナー

 日本で古くから伝わる、座敷わらし。主に東北地方に伝わる妖怪で、古い日本家屋や旅館に住むことが多いといわれている。座敷わらしは家を守り、見た者には幸福が訪れるなどの伝承があり、座敷わらしがいると言われる宿を訪れる旅行会社のプランにも人気が集まっているそうだ。

 

 そんな座敷わらしに近い存在とされているのが、沖縄のキジムナーだ。キジムナーは沖縄地方に伝説上の妖怪や精霊のような存在で、沖縄の方言で「木の中にいるもの」という意味を持つ。

 

 その姿は一般的に小柄で髪の毛が長く、赤い目を持つ。キジムナーは主にガジュマルの木の中に住み着いており、自然と調和して生活し、森の守護神としても伝えられる。

 

 キジムナーは人間には友好的だが、しばしば気まぐれで、無礼な態度を取る人に対してはいたずらをしたり、災いをもたらすともいわれている。今回は私が体験したキジムナーに関する不思議な話をしよう。

 

■沖縄で沈没した激安ゲストハウスには……

那覇の中心街にある商店街を抜けた先にそのゲストハウスはあった

 私が本連載、第6回で書いた話を覚えているだろうか。2003年、沖縄の路上でTシャツを売る友人のマイを頼り、所持金3000円でノリだけで沖縄に行ったときのエピソードだ。

 

以前の記事でも書いたが、そのとき宿泊していたのは、今は閉業してしまった、那覇の平和通り商店街近くにあった1泊1000円のゲストハウスである。

 

 最近はあまり見かけなくなったが、布団が何枚も敷いてある雑魚寝のドミトリータイプ。部屋は男女別に別れており、男女の部屋を仕切るように真ん中に居間があった。昼間、皆が出かけているときにこの居間でオリオンビールを飲みながら過ごすのが至福の時間だった。

 

 ただ、このゲストハウスには”ある噂”があったのだ──。

 

座敷わらしが出るゲストハウス!?

沖縄ではよくあるタイプのゲストハウス。だがそこには……

写真はイメージ /画像:写真AC

「この宿、座敷わらしが出るらしいよ」

 

 この宿で一番、長く泊まっているYちゃんが言う。Yはこの宿に泊まって半年、大学卒業後、フリーターとなり国内外を旅した後、沖縄に行き着いた。

 

「座敷わらしって沖縄にもいるの?」

 

「名前は忘れちゃったけれど、沖縄版の座敷わらしがいるらしい。前にここに泊まっていた子が昼間、ひとりで部屋にいるときに子どもの声を聞いたって言ってたんだよね」

 

 座敷わらしか……。まぁ、沖縄は色々、言い伝えがあると聞くし、そういうのがいたとしても不思議ではないだろう。

 

座敷わらしがいるというゲストハウスに感じた胸騒ぎ

 

座敷わらし(キジムナー)が出るゲストハウスで「沈没中」の筆者カワノ氏の写真。

写真左上隅に謎の光源が映りこんでいるが……

 その話を聞いて以来、私は「もしかして座敷わらしを見られるんじゃないか?」という興味本位から、昼間に耳をすますようになった。ときには誰もいない居間で「おーい」「座敷わらし〜」とか呼んでみたりした。だが、返事はなく、傍から見たらタダの危ない奴だっただろう。

 

 だが、そんなほっこりとした生活はすぐに暗転した。第6回でも書いた通り、ゲストハウス内で金が盗まれる事件が起こったのだ。後にオーナーが語ったところによると、犯人は事件後にすぐに宿を出た前科持ちの客の男ということが判明した。

 

 これがわかったのは、私が沖縄から東京に帰った後だった。ただ、実は滞在中も、私はなんとなく胸騒ぎというか気持ち悪さを感じていた。1カ月ほどの滞在で帰ったのも、そんな理由があったのかもしれない。

 

だが、この窃盗事件はその後、起こる異変の序章でしかなかったのだ──。

 

【はたして、ゲストハウスとキジムナーに何が起こったのか!? 後編は8月6日公開】