■石油は無限? 無機起源説
もうひとつが「無機起源」説。ザックリ言うと、
「石油危機なんてあるわけがない、石油は地底から無限に湧いて出るのだ!」
という説だ。言い出したのはロシア、当時のソビエト連邦である。70年ほど前、旧ソ連で「地球脱ガス作用」という学説が広まった。
水が循環しているように石油も循環すれば、石油はなくならない。しかし、石油は循環していないだろう、石油の雨が降るか? だから石油はなくなると思ったが、さすが赤い国はひと味違う。
石油は循環しないが、石油の原料となる「炭素」は循環すると考えた。炭素循環という考え方で、私たちが呼吸して出す二酸化炭素は巡り巡って海の底に動物や植物の死骸という形で溜まり、それが地殻運動で地球の内部へと引きずり込まれる。
大昔の地球は水素が多かったので、今もマントル内部には水素が大量に残っている。この水素と引きずり込まれた炭素が合体。炭化水素の形で地底にあるという。
この炭化水素は石油の原料だ。つまり、地上から供給される炭素が地底で炭化水素になり、炭化水素から石油が作られるというのが、無機起源説である。当時の旧ソ連では、石油は地球内部で岩石が変性して生み出されるという研究論文が立て続けに出た。なんとその数4000本以上である。
■ロシアが言い出したというのが微妙
「石油の無機起源説に関する最近の進展」(注1)による、と1952年から1965年にかけて、無機起源説に基づいて油田探査が行なわれ、カスピ海周辺でなんと90以上の油田が発見されたという。ということは、無機起源説は本当なのか?
注1/出典:中島敬史/石油技術協会誌第80巻第4号 275~282ページ
ソ連は資本主義社会に対抗して「ロシア科学」と呼ぶべき、独自路線の不可思議な科学体系を持っている。犬の首を切って別の犬につないだり、猿と人間を掛け合わせて猿人間を作ろうとしたり、重力は見せかけで宇宙の力はすべて電気だったり、いろいろ難のある科学体系だ。
この連載の「私たちの生命は宇宙からやって来た?」の回で紹介した、無機物から生命ができた説のオパーリンもロシア科学の人だ(なんだか無機物好きだな、偉大なるロシア科学w)。
そんなロシアの無機起源説。もし炭素が地上と地底でぐるぐると循環し、その途中で石油ができるのなら、地球のサイズから考えて、人類が滅びるぐらいまでは余裕で石油はありそうだ。しかし、言い出したのはロシア科学……う~ん、微妙だ。