■無機起源説は意外とありかもしれない
ロシアの唱えた石油が地底で無限に作られる無機起源説では、地底の超高温超高圧の世界で、炭化水素が元になって石油になるのだという。そうなれば、理科の教科書で習ったような恐竜や微生物の死骸(しがい)は不要だ。
本当か? 疑わしきは実験で確かめろ、そう、それがサイエンスだ。
1990年代、ロシア科学アカデミーは室内高圧実験で石油を無機的に合成する実験を行ない、成功させた。前回紹介した「石油の無機起源説に……」によると、2002年にアメリカのカーネギー研究所も追試を行い、地球の上部マントルで想定される圧力3~5万気圧、温度500~1500度の高温高圧下で、酸化鉄、方解石、水から天然ガスが無機的に生成させることに成功、さらに2009年には無機起源のメタンガスから原油を生成することにも成功した。
「あり」なのだ、無機起源説は。一連の実験から、わかったのは次の事実だ。
・地底70~250キロメートルに相当する高温高圧下で二酸化炭素やマグネサイト、方解石などと水から、酸化鉄を触媒として炭化水素が生成され、マントル上部の岩石層へと高圧力で注入される。
・岩石に注入後、急速に冷却されると天然ガスになり、ゆるやかに冷却されると高分子化し、原油になる。
ロシアが言っていたのは、地底の水素と死骸の炭素が結びついて炭化水素になる話だったが、マグネサイトとか酸化鉄とか出てきて、なんか違うことになっている。それでいいのか? ええのんか? ……細けえことはいいんだよ!
仮説が実験で崩れるのはよくある話なので、それが今回も起きたんだな、学者も大変だなと思っていただければありがたい。
■無機起源の油田はそれなりに見つかっている
さて、ここで石油が有機物起源、微生物が地底でケロジェン(前回記事参照)になって石油になったのなら、石油の掘れる場所が限られてくる。微生物が死んで川の底や海の底に溜まったわけだから、砂や泥が溜まって石や岩に変わった堆積層にしか石油はないだろう。
一方で無機物由来であれば、石油が生まれるのはマントルで作られた石油が上昇、地殻層に溜まったものだ。つまり石油が有機物起源か無機物起源かは、石油がどこで掘れるか、どこで見つかるかで決まるわけだ。
世間の常識では石油は有機物起源だが、では無機物起源と考えられる油田、地層的に有機物が溜まることはありえないが、マントル直上で石油が溜まった油田はないのかといえば、実はある。
基盤岩油田といって、商業規模のものは1000個以上あり、2007年時点の世界の石油埋蔵量のおよそ5.4パーセントに相当するという。つまり、すべての石油が無機起源ではないが、すべてを有機起源とするのも間違いだ、みんな違ってみんな良い、である。
■地球の地殻層まで狙えば石油は無限?
しかも、スウェーデン国立工科大学の試算では、世界のガス田、油田の埋蔵量を補うのに必要な有機物の炭素量は、これまで死んだ微生物の量から推定される炭素量の1300~1200倍だという。そもそも、原料の有機物がまったく足りないことになる。
つまり、有機物起源では石油の量が確保できないわけだ。じゃあ、どこから足りない炭素が来ているのか問題である。
アメリカのアーカンソー州とナバホ居留地にまたがるキンバーライト岩帯(ダイヤモンドの鉱床)には、1トンあたり2356~9187グラムの炭化水素が含まれている。ダイヤモンドも石油も元をただせば炭化水素だ。
マントルの総量は4.05×10の21乗トンと推定され、もし調査したキンバーライト岩帯と同量の炭化水素がマントルに含まれるとすれば、その量は現在の石油埋蔵量の1億倍となる。
1億倍!! 30年後に石油がなくなるどころか30億年後でも石油はまだある。
普段、石油を使っている私たちは「これは有機物由来? それとも無機物?」などと区別していないが、石油には無機起源と有機起源があるのかもしれず、もしそうなら石油は事実上無限。
これまでは堆積層を狙って油田を探し、それ以上の深さは対象外だった。たまたま深く掘った時に石油の出た油田があるだけだ。ロシアのように、最初から狙って地殻まで穴を掘れば、そこからは石油が噴き出すのではないか!