■村に建てた家はなぜか心霊現象が続発!

2度目に建てた家では霊感ゼロの人も感じるほどはっきりした心霊現象が!

「バジャウの村で何回か家を建て直したんだけど、2軒目の家のときだったかな。ゲストハウスも兼ねていたから、遊びに来ていた日本人10人くらいと一緒に住んでいて。住み始めて1ヶ月くらいは、家の中がお化け屋敷みたいになっていたよ。あちこちに幽霊が出て、霊感がないヤツですら心霊体験をしていたね」

 

 彼らの証言によれば、「耳元で何かに突然ささやかれた」「夜寝ていてパッと目を覚ますと、見たことのない子供が家の中を走り回っていた」「髪の長い女が上から覗き込んでいた」などなど、霊を信じていない人ですら、その存在を感じてしまうほどの怪奇現象に毎晩見舞われた。ウィンチェスター・ミステリーハウスならぬ、バジャウ・ミステリーハウスといったところか。一体なぜそんな事態に……。

 

 じつは大夢さん、心当たりがあったと告白する。

 

「バジャウ族って、家を建てるときに近所の人を集めて儀式をするんだ。お祈りというか、お祓いというか。日本でも地鎮祭をやったり、餅投げをやったりするよね。それのバジャウ族バージョンかな。俺、それをやっていなかったんだよね」

 

 儀式を行なわなかったことに、バジャウ族の祖霊が怒ってしまったのだろうか……。

 

■丑三つ時の桟橋に現れた長い髪の女とは……

松田さんの家に繋がる桟橋に深夜、突如出現した女とは……?

 その後1ヶ月ほどで心霊現象は収まった。古くからの儀式には、やはり意味があるのだと痛感させられた大夢さん。ただ、これで終わりと思いきや、なんと3軒目の家でも怪異が襲いかかる。

 

「3軒目に建てた家で、友達と夜中にボードゲームをしていたときの話なんだけど。シャイマは寝ていて、俺たちだけで遊んでいたんだ。深夜2時くらいだったかな。腹が減ったから、コンビニに行くために何人かで外に出たんだ」

 

 水上に建っていた大夢さんの家。村の外に出るには桟橋を渡る必要があった。ふと大夢さんが桟橋から家を振り返ると──。

 

「髪がボサボサの女の人が、家の前に立ってこっちを見ていて。そのときは『シャイマが起きてきたのかな?』と思って、気にしなかった。夜中に騒いでいたから、怒っているのかなって。でもコンビニから帰ってきたら、シャイマは普通に寝室で寝ていたんだよ……」

 

 翌朝起きたシャイマさんに尋ねてみても、夜中に起きた覚えはないという。桟橋の女は誰だったのか。

 

■バジャウ族のお年寄りはほぼ全員が祈祷師!?

船を家とし、海で暮らしたバジャウ族はアミニズムや精霊など独特な信仰があった。

画像:Torben Venning, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons

 少数民族であるバジャウ族は、他の宗教に由来しない独自の信仰を築いている。近年ではイスラム教の信者も増えてきたため、村の中にはバジャウ本来の宗教とイスラム教がミックスされたような信仰の空気があるという。

 

「土地の雰囲気的に、バジャウには目に見えないスピリチュアルなものが多いね。悪霊に取り憑かれて、おかしくなった人も時々いてさ。そういう人が出ると、村のお年寄りが集まって、お祓いみたいなことをしている」

 

 お祓いをすれば、おかしくなってしまった人は正常に戻るらしい。大夢さんいわく、村の高齢者はほぼ全員が祈祷師のような儀式をできるそうだ。

 

「お年寄りたちは船の上で暮らしてきた世代だから、不思議な力を持っている人が多いよ。バジャウ族は自然崇拝というか、ナチュラルに生きているんだ。都会で浴びる情報のノイズもないし。だから人間が本来持っているスピリット・パワーを感じ取れるのかもね」

 

■海の民の霊的パワーは息子さんにも!?

 そんなバジャウ族の霊的な力を、奥さんのシャイマさんだけでなく、二人の間に生まれた息子さんも受け継いでいるのでは? と思う事件があったという。

 

「そのとき住んでいた家は3階建て。ある日の夜、3階の居住スペースでシャイマと息子とくつろいでいたんだ。そしたらシャイマがいきなり『2階から何かが上がってきた』って階段に続く扉を見て。俺は何も見えなかったけど、“いる”らしい空間を見た息子がおびえ始めた」

 

 息子の様子は尋常ではなく、「絶対に何か見えている」ような怖がり方をしていたという。

 

「シャイマに『ソイツは何をしているの?』と聞いたら、『影のようなものが扉の前に座っている』って返ってきて……」

 

 何者かの存在を確信した大夢さんは、意を決して扉を開けた。すると……。

 

「その瞬間、足先から頭にかけて、何かがドワーッと入って駆け抜けていった。何だったのかは分からない。扉の前に座っていた影が、俺の中に入ってきたのかな……」

 

■昨夜現れたのはバジャウの祖霊だったのか?

強烈な心霊体験の翌日、台風で倒壊した自宅。祖霊が危険を伝えてくれたのか?

 シャイマさんに「もういなくなった」と声をかけられるまで、驚きのあまり立ち尽くしたままだった。

あれは一体なんだったのか──。

 

 首を傾げつつ眠りについた翌日。大夢さんの自宅は、突然訪れた大型台風により崩壊した。

 

「幸い俺も家族も無事だったけど、アレはもしかしたら警告だったのかな。逃げろって」

 

 東南アジアの一角で起こった不思議な出来事。偶然と片付けてしまうには、あまりに話が出来すぎている。

もしかすると、バジャウ族の祖霊が大夢さんたち家族に危険を伝えに来たのだろうか……。