■SNSを通じ全米に衝撃を走らせた「ある事件」

最近では「ピエロ+ゾンビ」というハイブリッド版(?)も人気のようですが……

画像:D.Begley, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons

 アメリカ合衆国でドナルド・トランプが大統領になった2016年、サウスカロライナ州グリーンヴィルで「恐怖のピエロ事件」が発生し、SNSを中心に大きな話題を呼んだ。

 

 ピエロといえば、白塗りのメイクに赤い鼻をつけた姿がお馴染みだ。人気ホラー映画「IT」に登場するペニーワイズや、そのモデルとなった殺人ジョン・ウェイン・ゲイシーを思い出す人も多いだろうが、2016年の「恐怖のピエロ事件」とは、白塗りの複数のピエロ姿の人物たちが子供たちに声をかけて森の中に誘い込もうとした、というもの。

こちらはガチの「殺人ピエロ」ジョン・ゲイシー。ピエロ=怖いのイメージは幾分かはこいつのせい 画像:Martin Zielinski, Public domain, via Wikimedia Commons

「ピエロが緑のレーザー光線や大金で子供たちの気を惹こうとした」

「ナイフを振りかざして追いかけてきた」

 

 などの目撃証言が次々にネットに上がり、情報が錯綜。あまりの騒ぎに現地の警察は「ピエロに仮装した18歳以上の人物を見つけたら拘束する可能性がある」と警告を出した。

 

■騒動の元は映画のプロモーションだった!?

恐怖のピエロ

全米を震撼させた恐怖のピエロの写真。だが、実際には……

画像:https://www.facebook.com/gagstheclown/より引用

 そして、ウィスコンシン州グリーンベイのダウンタウンにある橋の下の空き駐車場を徘徊する不気味なピエロの写真5枚がネット上で急速に拡散すると、多くの報道機関が取り上げて話題騒然。全米に「恐怖のピエロ」の噂が一斉に広まることとなった。

 

 ただし、この写真は当時未発表だった短編映画「Gags」のプロモーションだったことがのちに発表された。ちなみに、この短編映画に基づいて長編映画が製作され2018年に公開されている。

 

GAGS THE CLOWN (2019) Official Trailer (HD)
 

 そもそも欧米では「Coulrophobia(コロフォビア)」、日本語でピエロ恐怖症やクラウン恐怖症と呼ばれる恐怖症の一種に苛まれる人が少なくない。最近では日本でもこの症状を訴える人が出てきているが、本来は笑わせたり緊張をほぐしてくれるはずのピエロを見ると、怖気が走るというもの。

スティーブン・キングの傑作『IT』のペニーワイズ(のコスプレ) 画像:Pikawil, CC BY-SA 2.0 , via Wikimedia Commons

 なかには白塗りの顔や赤い鼻といったピエロのパーツを見るだけで恐怖で叫び声をあげてしまう重症の方もいるようで、もともと「ピエロは怖い、ヤバい」というイメージが共有されているわけだ(だからこそ、ジョーカーやペニーワイズのようなキャラクターが誕生する)。

 

 この「恐怖のピエロ事件」の背後にも、全米いや世界中で共有されている「ピエロは怖い者、何をするかわからないやつ」というイメージが根っこにあるようだ。

 

■その後も相次ぐ「恐怖のピエロ」出没事件

遂にピエロ禁止令まで!?

画像:No clowns allowed. Based on https://www.flickr.com/photos/steenslag/22689920

 その後、2016年8月末にはアメリカ全土でピエロ事件が続発。カナダ、英国、オーストラリアでも同様の事件が発生した。このパニックは世界中に広まり、ニュージーランドではピエロの衣装が販売禁止に。アメリカではいくつかの地域でピエロのマスクと衣装が販売停止となった。ペンシルベニア州立大学とミシガン州立大学では、キャンパス内でピエロを探す暴徒に学生が巻き込まれる事件も発生した。

 

 ピエロのマスクを被れば誰でも恐怖のダークヒーローになることができてしまう。SNSでの話題作りを狙った人間がブームに乗って便乗したケースも多かったであろうことは、容易に想像できる。現代はSNSでバズればお金を稼ぐことができてしまう時代だ。

 

 今年、2023年のハロウィンは10月31日(火曜日)。渋谷区の長谷部健区長は9月の記者会見で「ハロウィーンを目的に渋谷駅周辺に来ないでほしい」と呼びかけたが、ハロウィンの仮装をめぐる騒動は毎年加熱している。2023年も、何かが起こるかもしれない……。