■「人類進化の行進」は大間違いだった!?
私たちおっさん世代は「最初の人類はアウストラロピテクス」だと学校で習った。人類は400万年前のアウストラロピテクスから始まり、ホモ・エレクトスでその中に北京原人がいて、ネアンデルタール人でクロマニヨン人で現代人へと順番に進化した。
サルが手をついて歩いていたシルエットが、だんだん腰が伸びてまっすぐになり、槍を抱えた現代人っぽい姿へと変わる有名な図がある。「人類進化の行進図」という図だが、まさにあれだ。あの図を見ると、
「人間は一直線にサルから人間へと進化したのだな」
「最初が木の上にいたサルで、それがチンパンジーみたいになって、二足歩行になり、ネアンデルタール人、そしてクロマニヨン人、現代人」
猿人→原人→旧人→新人(現在の人類)
という流れで人類の進化を理解する。猿から人間へとパラパラ漫画のように姿が変わっていく。
魚が肺魚になり、両生類になって地上に這い上がり、爬虫類から哺乳類へと変わって行ったように、猿のようなアウストラロピテクスが進化して背筋を伸ばし、ホモ・エレクトスとなった。彼らがさらにたくましく活動的に進化したのがネアンデルタール人、そこからさらにクロマニヨン人へと進化し、現代人へとつながる──進化とはそういうものだと習った。
テレビでは仮面ライダー1号2号のダブルライダーで、マジンガーZとグレートマジンガーも共闘するが、進化はアニメではない。進化は一本道で、前の世代がいなくなって次が登場、新型が登場する時は主役交代……それって昭和なのだそうである。
「人類最初の女性、ルーシーの頃からだな、男女というものは──」なんて、知ったふうな顔で説教垂れようとしたら、令和キッズには「おじさん間違ってるよ」と小バカにされる。おじさんのほうこそ、知識を進化させないと……。
■進化は樹木のように広がった
まず最初の一歩目から違う。人類の始まりはアウストラロピテクスではなく、600万年前のサヘラントロプス・チャデンシス。平成以降、2001年以降の教科書ではサヘラントロプスと書かれている。
最初の一歩目が違ってくると他も変わってくる。現代の人間つまり現生人類は肌の色ぐらいしかバリエーションがないが、以前の地球にはもっといろいろなバージョンの人類がいたらしい。さまざまな人類の化石が見つかり、その年代がわかるにつれ、人類の進化の様子も大きく変わってきた。
人類は一本道で新しい種類の人類が現れ、古い人類と交代していくはずが、ヨーロッパやアジアで見つかる原人や旧人の化石は、生きていた年代が新人とガッツリ重なっている。古い人類も新しい人類も一緒に生きていたらしいのだ。
つまり、今の地球にオランウータンとチンパンジーとゴリラという、見かけの違う類人猿がいるように、昔の地球には亜人類というべき私たちとは別系統の人類が何種類もいたという。仮面ライダー大集合、全然ありだったのだ。
よく考えれば、魚が全部陸に上がったわけではないし、両生類もしっかり生き残っている。進化の道は常に枝分かれを繰り返し、そのうちのいく本かが今につながっているわけだ。
しかも、これまで浅黒くガッツ石松に似たサルのような顔で描写されてきたネアンデルタール人は、実は金髪碧眼(きんぱつへきがん)の筋骨たくましい白人で、現生人類とのあいだに子どもも作っていたという。さらに、アジアには小人族や巨人族もいたらしい。
どうなっているのだ。学校で教えられた話と全然違うじゃないか!?
■最初からヒトはメチャクチャ立っていた
人類がチンパンジーと枝分かれしたのが600万年前。その時に生まれたのがサヘントロプス・チャデンシスだ。「人類進化の行進図」のイメージでは、サヘントロプスはほとんどサルだろう。前かがみで、二本足で立てはするが、ほとんどチンパンジーみたいに四本足で歩いたと思うだろう。分類名からして「猿人」である。それが徐々に立てるようになり、猫背気味で歩く原人(ホモ・エレクトス)となった。だから、名前だってホモ・エレクトス=立つ人だ。
これも間違いだという。サヘントロプス、最初からメチャクチャ立っていたらしい。頭蓋骨には背骨が突っ込まれる大後頭孔という大きな穴が空いている。犬猫からライオンや象に至るまで、体の大小に関係なく、四本足の哺乳類は背骨と頭蓋骨が水平につながっている。だから大後頭孔は頭蓋骨の後頭部に空いている。
しかし、立つ(=直立する)なら、大後頭孔は頭蓋骨の底に開いていないとおかしい。サヘントロプスの化石を見ると頭蓋骨底部に大後頭孔があり、二本足で立っていたことがわかる。
ここで明確に線が引かれる。人類進化の行進図に描かれた、だんだん背筋が伸びて立ち上がる人類の姿は間違っていた。
私たちの祖先は立ち上がった。二本足で歩き始めた。それが私たちをサルと切り分けた、文字通り「人類の大きな第一歩」だった。大地を踏みしめ、私たちは別の生物になったのだ。