■裸と二足歩行の謎

人間の体に毛が生えていないのは、性器を見せるためだった?(写真はあくまでイメージですが……) 画像:Michelangelo, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

 なぜ人間は二足歩行をするようになったのか? 実はまだわかっていない。

 

「ジャングルから平原に出て、遠くを見回す必要があって立ち上がった」

「殴り合うために手を使う必要があってニ足歩行になった」

「立ち上がった猿を見て他の猿が真似をした」

「発情期を失うことが先にあり、いつでも性器を見せられるように立ち上がった」

 

 ……性器をオールウェイズ見せびらかすためにわざわざ立ち上がったのか? 遺伝子を書き換え、頭蓋骨と背骨のつながる場所を組みかえ、骨盤を変え、手足のバランスを変え……どれだけ見せたいんだ、わがムスコを。結局、なぜ立ち上がったのか、まったくわかっていないということだけがわかる珍説ばかりである。

 

 サルと人間のもうひとつの大きな違いは体毛だ。体毛は立ち上がってからどんどん薄くなっていったらしい。なぜ人間が無毛になったのか、これもわかっていない。

 

 人間の目は色覚がある(色覚のない猿は多い)ので肌の色の変化で感情を読みとれるという説や、脳が発達するために毛を生えさせるエネルギーを使ったという説があって、こちらも微妙というか意味不明だ。脳が発達にいたっては、じゃあハゲは頭がいいのか? という話になる。そりゃ悪くはないかもしれないが、そういうことではないだろう。

 

■人類の祖先は河童だった!?

人類は水辺で進化した? もしかしたら河童とはその進化で分岐した亜人類か?

画像:『狂歌百物語』(竜斎閑人正澄・作)より , Public domain, via Wikimedia Commons

 二足歩行と無毛問題を一気に解決するかと思われたのが、水生類人猿説だ。

 

 サルが水辺で暮らすようになり、その結果、水の抵抗を減らすためにカバやイルカのように毛を失い、水中でおぼれないように2足歩行をするようになったという説だ。髪の毛が残ったのは、頭だけ水面から出していたからという。

 

 さらに人間の鼻の穴は地面を向いている。これは動物では極めて珍しい。どの動物も顔の正面に鼻の穴があるはずだ。水中で暮らすために、水が入りにくいように適応進化したのではないか?

 

 実にもっともらしい水生類人猿説は、全否定はされていないが証拠もない。それに人間はけして泳ぎが得意ではない。カバやワニと泳ぎ比べで勝てる見込みはゼロだ。あくまで仮説のひとつであり、電脳奇談的には河童の正体である。

 

 

■汗をかくことで人類は長距離移動が可能に

体毛を失うことで、私たちは長距離を走れるようになった(写真はイメージ)

画像:Erik van Leeuwen, GFDL , via Wikimedia Commons

 学術的にもっとも信ぴょう性が高いとされているのが、長距離を移動できるように、汗をかくようになったという説だ。

 

 ホモ・エレクトスは狩猟に最適化するために進化し、毛を失い、ホモ・エルガステルとなった(諸説あり)。

 

 人間と哺乳動物の違いに、二足歩行と無毛以外にもう一つ、がある。

 

 動物はほとんど汗をかかない。汗をかくのは人間以外では馬ぐらいだ。カバは赤い汗(!)をかき、カモシカは青い汗(!)をかくが、どちらも体温調節が目的ではなく、寄生虫や日光から皮膚を守るためらしい。犬猫は肉球から汗をかくが、これも体温調節ではなく、マーキングの一種だとされる。

 

 体温調節のために汗をかくのは人間と馬ぐらいと言ったが、この2種類の生物にはもうひとつ共通点がある。それが、どちらも長距離を移動できる、ということだ。

 

 毛が体温調整のためにあるというのは、わかると思う。砂漠に暮らす人たちが、くそ熱いのにブカブカの暑そうな服を着ているのは、あの恰好が一番涼しいからだ。毛があるのに汗をかいたら、びしょ濡れの服を着ているようなもので、気温が下がったら寒くて死ぬかもしれない。

 

 汗と毛は両立しないのだ。馬は極端に毛を短くすることで対応し、人間は思い切って毛を捨てた。そして汗の冷却機能を最大化し、長距離を動いてもオーバーヒートしないようになった。人間は足は遅いが、代わりに延々と動物を追い回し、相手がへばったところで捕獲する戦術を選んだのだ。